リニアの強引無理ニア #6:不快な乗り物?

外部気圧の変化が大きい

「土管のコンコルド」ことリニア中央新幹線が、飛行機に似ている点がもう一つある。外部気圧の変化が大きいことだ。下図のようにルートはかなり起伏に富んでおり、リニアは最大40%勾配(1000m進むと40m上下)で登り降りする。

出典 JR東海 事業説明資料 p. 10、横軸縦軸スケールを追加

品川駅の〈標高 -40m、1.005気圧〉に対して、南アルプストンネルの最高点は 〈1210m、0.863気圧〉である(このサイトで標高から気圧を求めた)。青矢印でマークしているように、甲府盆地から南アルプストンネル最高点までは 32kmほどで、500km/hなら4分足らずの距離だが、高度差は約 940m、気圧差は 0.125気圧にもなる。

この外部気圧変化率は、飛行機内部の気圧変化率より大きい。B787が離陸して12,000mにまで上昇すると、機内は 0.8気圧まで下がって落ち着く。このブログ主の測定(下から4番目のグラフ)に依れば、約 16分で 0.2気圧(気圧高度 1800m)下がっている。4分で 0.05気圧下がるペースである。ゆえに、時間当たりの気圧変化率は、リニアの方が 2.5倍も大きい!

この変化を乗客にそのまま感じさせる訳にはいかない。車内気圧を1気圧ほぼ一定にするか、あるいは長野県駅の気圧〈標高 440m、0.948気圧〉を下限としてゆっくり変わるように、制御すれば良い。簡単なことと思えるが、どうもそうではないようだ。

気圧変動の制御が重点開発課題

出典 JR東海・開発課題 p. 5

2017年のJR東海・開発課題を見ると、車内の気圧変動の制御が重点課題の一つとして残っている。左図はその p. 5からの切り出しで、山梨実験線でのデータを示している。

実験線の高低差は約 430m、気圧にして 0.048気圧ほどの変化に過ぎず、車内の変動も 0.04気圧以下には収まっている。それでも試乗した多くの人が「耳ツン」という表現で不快に感じるから、重点課題になっているのであろう。

このデータでもう一つ注目すべきは、トンネルを高速で通過中だと車外圧力(おそらく車体表面で測定)は〜0.03気圧ほど(その高度の圧力よりも)低いことである。だから、南アルプストンネルの最高点付近で車体の感じる圧力は、0.863気圧よりも低い、〜0.83気圧となるはずである。

さらに、本シリーズ#5で紹介した論文の計算予測では、500km/hの最長編成がトンネル内ですれ違うと、最大で +0.15、-0.19気圧変動するという(トンネル内面で)。もちろん、こういう激しい変動を乗客にそのまま感じさせる訳にはいかない。

車内気圧をほぼ一定に保つべき

資料 p. 5の右側には、給/排気流量調整弁を云々との記述しかないことから、圧力をきちんと保てる空調システムではないことが伺える。在来新幹線のシステムを流用・改良しても対応できないだろう。不快な乗り物にならないためには、飛行機の与圧システム並みのものを備えて車内気圧を一定に保つべきだ。土管のコンコルドなのだから。

車内の気圧を一定に保つとすれば、そもそも車体が外部圧力変動に耐えられる設計なのかという疑問も出てくる。ルートの高低差(+トンネル内圧力低下)で -0.17気圧の変動があり、高速すれ違いでの大きな瞬時変動が数10回/日も起こる。このようなストレスに、車両は数10年間も耐えねばならない。連結部が最も難しそうであるが、大丈夫なのか?

実験線試乗の感想

多くの人が山梨実験線の試乗を体験し、感想をブログなどに公開している。多くは「500キロすげー」だけに終わっており余り参考にならないが、冷静に観察したものもある。特に有用と思われるのは:

(1) カメラを回し続けて、騒音や振動が速度と共に変化する様子がよく分かる動画
(2) 騒音計を持ち込み、タイヤ走行時と最高速時で85デシベルを記録したとする体験記
(3) 高速時の騒音や揺れは「乱流」のせいではないかと指摘する記事

85デシベルとはかなり高い騒音レベルであり、この資料によると目安は:
・90デシベル:騒々しい工場の中、カラオケ(店内中央)、ブルドーザー(5m)、アースドリル(5m)
・80デシベル:地下鉄の車内、ピアノ(1m)、布団たたき(1.5m) 、麻雀牌をかき混ぜる音(1m)
などとなっている。

いろいろな試乗感想に共通すると思われる点は:

(a) タイヤ走行中は五月蠅く、ゴトゴト感あり
(b) 浮上して 300km/hぐらいまでは、静かでスムース
(c) 400km/hぐらいから、騒音レベルが高くなり、上下左右の小刻みな揺れがある
(d) 最高速時にトンネル内で「耳ツン」を感じる
(f) トンネルの照明が(余りに速く過ぎ去るので)チカチカする
(e) タイヤ着地で焦げ臭い臭いがする

(a)は飛行機の離着陸と似た感じで、さもありなんと思われる。(b)はリニアの数少ない美点であろう。(c)が問題で、後で詳しく論じるが、連接台車という方式そのものに起因すると筆者は推察する。

(d)は、実験線の最高地点はトンネル内で、そこを最高速で通過するためであろう。上に紹介したJR東海のデータでも、車内で 0.04気圧ほどの低下となっている。(f) は全くその通りで、(1)の動画を見ればよく分かる。

(e)は空調システムの手抜きではないかと考える。タイヤ着地すると、瞬間的に白煙が出て焦げ臭くなるのは、当然というかやむを得ないが、それが簡単に客室内に入ってくることが問題である。

土管の中の空調は意外に厄介かも

出典 超電導リニアギャラリー

外気取り入れ口は連接台車内部にあるはずで、上部と下部で仕切りがなく、まさかタイヤの白煙をモロに吸っているのでは・・・ないとは思うが。

外気取り入れ口が車体上部にあったとしても、トンネル内に白煙が充満して、それを吸うのだとすれば対応は難しい。タイヤ着地する場所付近では、外気導入を止めるしかない。

右写真は超電導リニアギャラリーの「02.jpg」から、連接台車部分を切り出したものである。ルーバーのような通風口は、冷凍機の換気口であろう。おそらく超電導磁石のクエンチ時に備えたもので、沸騰したHeが猛烈な勢いで出てくるものと思われる。クエンチ時も、外気導入を止めるしかないだろう。

トンネル内は換気されることになっているが、汚れた空気が排気ダクトに出て行くまでは、トンネル内を移動しているだけであり、客室内に吸われてしまうだろう。空調を上手くやらないと、いろんな臭いが客室に侵入してくると思われる。

高速での騒音・揺れは、乱流のせいか?

400km/hぐらいから、騒音レベルが高くなり、上下左右の小刻みな揺れがある」を考察してみる。

これは上に挙げた試乗レポート(1)〜(3)に共通する。(1)の動画は現象を最も客観的に示しており、音を聞きながら見ていると緊張してくる。(2)、(3)は、騒音と揺れで「気分が悪く」なったと記している。(3)の記事は、専門家のコメントを引用して、「空気の流れの激しい乱れ(乱流)が原因」ではないかと指摘している。

出典 リニア見学センター

左写真のように、リニアの台車部は客室部より出っ張っており、側壁との間隔が異なるために、「乱流」現象がより激しくなるのではないかと筆者は推測する。

台車部が出っ張っているのは、車両基地内などにある軌道の曲率が小さい場所で、車体中央部が側壁に接触しないためである。このブログに詳しい説明がある。

何cmぐらい台車部が幅広いのかは、公表されていない。JR東海は車両幅を2.9mと発表しているが、それはどうも客室部の幅である。

出典 JR東海 L0系の設計

上のL0系CG図面を測ると、車両長さ 24.3mに対し、連接台車部の幅は 3.14mほどとなる(ただし案内ストッパ輪と思われる突き出し部を除く)。つまり連接台車は片側12cmほど、客室部より幅広い。

出典 特許公開 図4

台車と側壁の間隔は〜7cmなので、列車が通過するとき、側壁との間隔は 7cmと 19cmとで周期的に早く変動する。いかにも乱流が起こりそうである。例えば、右図はある特許で使われている説明図で、「乱流促進体」と呼ばれている。

空力的に疑問な形状が多い

空気力学的には、側壁との間隔が狭い方は気圧が低くなり、より狭くする方向の力が働くはずである。つまり左右ブレが大きくなりやすい。しかし磁気的には左右中心に戻そうとする強い力が働く。さらには軌道自体の僅かな上下左右ブレ(数mm程度)もある。

乱流とこれらが相俟って、高速になるほど騒音レベルが高くなり、上下左右の小刻みな揺れが目立ってくる、というのが筆者の推測である。

車体底部はほぼ平坦だが、支持車輪を収める穴は空いたままだ。これも騒音や揺れの原因になる。航空機のように、車輪を収めたら、床面を閉じて欲しいところだ。実際、台車側面の案内車輪のほうは、鎧戸が閉まる仕掛けになっている。いざクエンチの場合は、支持車輪をなるべく早く降ろしたいのだろうが、案内車輪とて早く出したいのは同じことだ。首尾一貫していない。

台車部のルーバーのような通風口も、騒音や揺れの原因になる。車体の様々な部分で、空力的に洗練されていないように見える。

飛行機に乗ると乱気流に遭遇することがあり、「ただいま当機は気流の悪いところを通過しております」のアナウンスで、席に戻りシートベルトをするよう促される。機体は不規則に、小刻みに、時には大きく揺れて、とても不安を感じる。

正にこんな感じでリニアも揺れるのではないだろうか。流石は土管のコンコルドで、乗る度に確実に乱気流に遭遇してくれるのかも知れない。一度は試乗してみたいものだ。


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