リニアの強引無理 #13A:緊急停止時間と距離、ディスクブレーキ発熱に不安激増

前稿 #13 で判明したのは、「ブレーキ装置を全て使用して急減速」という看板は偽りであり、JR東海/国交省は以下を想定していること:

Α)通常は、回生と空力ブレーキのみで、発火リスクのあるディスクブレーキは使わない
B)停電時のみ(回生ブレーキなし)、止むを得ずディスクブレーキを使う

本稿では、簡単なモデル計算により停止時間/距離を求めてみる。結果を先に示すと、図のような減速特性となる。

回生+空力ブレーキによる減速モデル

クリックして拡大

回生ブレーキによる減速度を α(0.14G一定)、空力ブレーキによる最大減速度を β(0.06G)とする。空力ブレーキの効きは、速度の2乗に比例するので、減速運動は式(1)となる、ここで v0 = 500km/h。

その解は式(2)となり、tS はちょうど停止時間となり、式(3)で与えられる。

クリックして拡大

距離 x も容易に求められ、停止距離 xS は式(5)となる。

結果のグラフから、空力ブレーキの効きは限定的であり、停止時間にして10秒ほど、回生のみより短くなるだけである。

現実的には、いきなり急減速できないので(乗客のアナウンス、地震速報へのシステム応答など)、始めの10秒間は平均 0.1Gの減速度とすれば、停止時間は 92秒、停止距離は 6.3km となる。

これは報道と辻褄が合い、ディスクブレーキ不使用の状況証拠とも言える。

停電時はどうなるか?(回生ブレーキなし)

ディスクブレーキを高速から使うと発火リスクが高い。まずは空力ブレーキを掛けて、ある程度まで減速するしかない。

グラフのように、空力だけではゆっくりとしか減速できない(なお、α = 0.01Gとして計算、支持タイヤの転がり抵抗などもあるので)。100秒後でも、まだ 323km/hと速く、11.2kmも通過している。

この辺りから、ディスクブレーキを弱めに掛ければ、発火は免れるかも知れない。例えば、0.1Gで減速するとしよう。式(2)や(5)で、初期値やパラメータを設定し直せば、そのケースも計算できる。

結果は、さらに83秒掛かり、3.6km走る。計 3分、15kmぐらい掛かって、ようやく停止できる。

止まっても発火の畏れは残るので、乗客は避難を促されるだろう。ディスクブレーキの焼けた臭いと煙が充満するトンネルに出なければいけない。

超電導磁石は全てクエンチする。電池切れする前に、ブレーキの発熱のために、冷却状態をとても維持できない。冷却に液体窒素やヘリウムを使っていれば、激しく沸騰して吹き出し、トンネルの湿った空気を冷やして濃い霧を作る。

臭いと濃い霧で、多くの乗客がパニックになる。3人の乗務員だけでは、どうにも統制できないだろう。

どれくらいの発熱か?

そもそも500km/h = 139m/s で走行中の運動エネルギーは、台車あたり、30トン×1392/2 = 290MJ。(たまたまの例であるが)323km/hに下がっていても、まだ 121MJ/台車もある。これを0.1Gで減速すれば、83秒間で熱に変えることになるので、121MJ/83s = 1460kW/台車も発熱する(W = J/s)。

家庭用の1000W電気ヒーターを、台車のタイヤ回りに1460個も並べた発熱量である。どうやってもそんなに多数は並ばない(台車の写真 をご参照、#2に説明あり)。想像がつかないほどの発熱量である。

台車からは、タイヤの下部が15cmぐらい外に出ているだけで、ディスクブレーキなどはそっくり内側に収まっている。空気が通り抜けて冷えやすいような設計には、全くなっていない(もしそうすると、走行抵抗が増える)。どれだけ内部に熱が籠もることか? 

超電導磁石の冷凍機などは、真っ先にギブアップして、機能しなくなる。ブレーキコントローラや油圧系統は高温に耐えられるのかと心配になる。乗客が避難するとき、台車付近のパネルが熱くなり火傷する畏れもある。台車真上の通路は特に危ない。ドアが熱かったりしたら、パニックどころではない。

考えれば考えるほど、ディスクブレーキの発熱が怖い。たとえ 323km/hとしても、まだまだ速度が高すぎる。使いたくないが、使わないと止まれない。特に下りだと全然止まれない。

追突の可能性さえある。例えば、品川行きの各停が、山梨県駅手前の本線上に止まったとしよう。元々減速していたので、停電しても、すぐに止まれる。後続の列車は、約32km離れた、南アルプストンネルの頂上付近を走行中とする(現実のダイヤで、しばしば起こる状況)。

標高差は940m(#6ルート図をご参照)。位置のエネルギーは、台車当たり、30トン×9.8×940 = 276MJ!  空力ブレーキのみで 頂上付近から11km進み、位置のエネルギーは 2/3に減ったとしても、まだ 184MJもある。位置と運動エネルギーを合計して、305MJを熱に変えなければならない。

これはきつい。500km/hからの停止よりもきつい。従って究極の選択になる。ディスクブレーキを使い切って炎上するか、止まれずに追突するかだ。

下り勾配で停電なら、炎上するか、止まれないか

リニアのルートでは、40パーミル(1km進むと40m上がる/下がる)の急勾配を多用している。速度は駆動コイルの周波数で制御されるので、上り下りに関わらず、定められた速度、定められた加減速度となる。もちろん、上りか下りかで、駆動コイルの消費電力は増減する。

緊急時においても、回生ブレーキの減速度 0.14Gは、上りでも下りでも同じと思われる。

しかし停電して、回生ブレーキが効かないとなると、事情は全く違う。下りだと、位置のエネルギーが加わり、ブレーキへの負担は激増する。それに耐えられる仕様ではない。

南アルプストンネルと同じように、長い下り急勾配は、上り下りとも3ヶ所ずつある(ルート図をご参照)。いずれも途中駅の手前にある。ゆえに、上に述べた山梨県駅手前での追突の可能性は、決して特殊な状況ではなく、他の3つの途中駅でも起こり得ることである。

JR東海/国交省は、停電の時にどうやって止まるかを真剣に考えていない。公表資料には全く記載がない。たぶん解が見つけられないのであろう。

停電したら、そもそも通信が不可能なので、列車自体が位置、速度、上り/下り勾配を認識して、難しい判断をして対応しなくてはならない。そのような自律性は、全く、一切、見たことも聞いたこともない。おそらく検討もしていないだろうし、そんな自律性はどだい無理だと思われる。一体どうやって止まるのか?

彼らは、停電は起こり得ないと神話を嘯き、祈るしか無いのであろう。しかし大地震で広域停電が起こり、福島第一原発が全ての外部電源を喪失したのはほんの13年前である。その記憶さえ、もう喪失したのであろうか?

真っ赤なディスクロータ

リニア開発本部と住友金属が共同で、ディスクブレーキを評価した論文がある。国会図書館にユーザ登録すれば、だれでも閲覧可能である。写真2枚を以下に引用する。

坂本東男他「浮上式鉄道用台車及び台車部品の開発-1-緊急用車輪ブレ-キシステム
住友金属 Vol. 46 No. 4、P. 69~76、1994-10。

クリックして拡大

航空機用ディスクブレーキメーカーの評価設備を使い、タイヤ/ディスクロータ単品で、高速からの停止能力を評価している。タイヤ幅、荷重など、仕様が現在とは少し異なることに注意。

550km/hからの停止を確認できたという主旨だが、いろいろ条件が甘いと思われる。特に実験途中から「強制空冷」に条件を変えているのが、大甘である。逆に言えば、強制空冷しなければ、データ取りに支障をきたしたのであろう。

クリックして拡大

評価中のタイヤ/ディスクロータ単品は剥き出しなのに対し、実際は台車内部に隠れるように4組が配置してあり、条件ははるかに厳しい。熱は籠もり、逃げない。

台車の写真 において、4つのタイヤの中心部が真っ赤に発熱している状況を想像するだけで怖い。

800℃以上になるディスクロータからの輻射熱は、フレームや超電導磁石の断熱容器を容赦なく照らす。台車内部には熱せられた空気が充満する。-269℃の冷凍機もコントローラなど全てが高熱に晒される。

関係者なら、論文を一瞥しただけで、ディスクブレーキを出来るだけ使わない、と固く心に決めるだろう。

これでは、駐車ブレーキにしか使えない。他に手はないのだろうか? ディスクブレーキ作動時には、走行風が抜けるようにするのが望ましいが、しかし一体どうやって? かなり複雑な仕掛けが必要だ。止まっても、冷やし続けなければいけない。空冷ファンしか手がない。しかし電池が保たない。

炎上するか、止まれないかの、二択しかないようだ。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です