リニアの強引無理 #15B:最大消費電力の推定

リニアの消費電力が最大となるのは加速時と言われるが、もちろん公表されていないし、具体的な数字を推定した例も知らない。そんな折に、かねてから最も有用と思っていたこの試乗動画を再度観ると、加速度が丸わかりであった!

グラフは、動画に速度表示が現れる1:20から、5秒毎に速度を読み取ったもので、きれいな折れ線になった。エクセルに直線近似させると、加速度は:〜400km/hまでは 0.91m/s2、400km/h以上で 0.53m/s2となる。動画には距離も表示されており、400km/hには 7.7km地点で、500km/hは 14.2kmで到達している。

動画は、実験線の甲府側からの加速を撮影しており、40パーミルの急な登りがある。平坦でも登りでも降りでも、同じ加速度であろうと、本稿では想定している。

加速度は駆動電流の周波数の変化率で制御しており、勾配に合わせて周波数の変化特性を変えるよりも、駆動電流を増減するだけのほうが容易と思われるからだ。

加速に必要な電力は、400km/h直前で最大となり:MVα = 480トン×400km/h×0.91m/s2 = 4.85万kW

一方、500km/h直前では:MVα = 480トン×500km/h×0.53m/s2 = 3.53万kW

これに 3.5万kW(空気抵抗で消費される巡航電力)を加えれば、総消費電力は 7.03万kW@500km/h直前となる。

空気抵抗は速度の2乗に比例とされるので、400km/hでの巡航電力は 3.5×(400/500)2 = 2.24万kWとなる。加速電力と合わせて、総消費電力は 7.09万kW@400km/h直前となる。

驚くべき一致である。加速特性が折れ線になっている理由も明白になった。7.1万kWあたりを上限とし、それを超えないように(400km/h以上では)加速度を下げているのである。

実験線で最高速度 603km/h達成との発表もあるが、それは編成が短い実験線でのみ可能なことと思われるし、ひょっとしたら下り勾配を利用した瞬間的な値かも知れない。16両編成の本番で、それほどの余裕を持たせることは考えにくい。

もう一つ考慮すべきは、位置のエネルギーである。40パーミルの急勾配が多用されており、500km/hで登るならば、1秒間に139m/s×0.04 = 5.56m/sも高度を上げる。位置エネルギーの増加に必要な電力は:

Mg(dy/dt) = 480トン×9.8m/s2×5.56m/s = 2.61万kW

左表には、これまでに計算した主要な消費電力値をまとめた。ここから必要な項目を拾えば、様々な条件での消費電力を下表のように計算できる。

なお駆動損失が+17%あることについては、本シリーズ #15を参照されたい。

勾配は、公開されている「ルートの縦断図」を参照すれば分かる(例えば、この資料の P. 10)。500km/h(400km/h)に達するのは、駅から 14.2km(7.7km)ぐらいの地点となる。ただし品川の場合は、駅からではなく、平坦になってから本格的に加速するようである。

品川からの加速や、500km/h巡航&登り40パーミルの条件は、最も頻繁に起こるものと言える。これらの最大消費電力には、必ずや対応するはずである。

最大となるトップ3ケースは以下の通りで、いずれも途中駅からの加速中である:
・岐阜県駅からの上りは、500km/h到達の少し前に、35 → 40パーミルときつくなる
・長野県駅からの下りは、登り35パーミルがずっと続く
・山梨県駅からの上りは、400km/h到達時は40パーミルで、500km/h到達前に 17パーミルと緩くなる。計算すると、400km/h到達時のほうが、消費電力が多い

これら3つの最大ケースに合わせて、駆動回路の容量を設定するかと問えば、おそらくそうはしないのではないか。最も安易な手は、パワーの上限に達したら、そこで加速を止めて速度を維持することである。岐阜県駅からの上りの場合でも、460km/hぐらいまでは到達しそうに思われる。或いは、各駅停車は 12両編成までとすれば、加速度や最高速を変えずに済む。いろいろ逃げ道はある。

本稿の結論としては、最も代表的な「品川からの加速値」を採用する。1列車運行中の最大消費電力は、列車だけで〜7.7万kW、駆動損失も含む全体で〜9万kW、回路容量としては11万kWが必要ではないかと予想する。

それにしても、莫大な呆れるほどの電力である。消費電力も、最も強引無理なものの一つである。7.7万kWとしても、その時の損失は 1.3万kWにもなる。駆動コイルの電気抵抗やドライバー回路で主に発生するのだろうが、一体どれだけ発熱するのだろうか? どこかで容易に発火しそうである。この技術は危うい所が多すぎる。

JR東海自体も、国交省2010の P. 37において以下の懸念を示している:

「例えば加速区間あたりになってきますと、今度そこは地上側のコイルがあります。 こういったところにたくさん電気を流すことによってそれ自身の発熱というのもあり、そ れ自身が結局地上コイルの寿命を縮めてしまうといったところから、場合によってはそう いったところにもう少し冷却が必要だという可能性もありますけれども、基本的には今の 発熱に対しては換気で対応できるということでございます。」

駆動コイルの配線はガイドウェイ内部に隠れているので、冷却しやすいとは思えない。空気の通り道を設けるような話も聞かない。発熱するのは、列車通過時の数秒間だけなので、空冷では間に合わない。配線を水を満たした溝に通すのも一案だが、水管理が大手間だ。加速区間は、銅線を太くして電気抵抗を下げるぐらいしかないのでは。加速区間以外で加速する必要が生じた場合は、加速度を下げるしかない。

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冒頭の試乗動画についても一言。客観的でありノーカットなので、資料価値が極めて高い。1:00に発車し、3:54で 500km/hに達し、5:53で減速し始め、7:51に支持タイヤが着地し、8:31で停止する。

500km/h走行中の2分間が非常に長く感じる。絶え間ない轟音、揺れ、トンネル照明のチカチカが、画面で見ても大いにストレスを感じる。だから、減速し始めるとホッとする。

試乗ではたった2分間だから、耐えられるのだと思う。本番では、この状態が30分以上続く。大半の人は耐えられず、2度と乗りたくないと思うのではないかと予想する。加えて、大きな気圧変化があり、ネットも携帯も繋がらない。どうしようもなく不快な乗り物と言うべきである。

もし乗り物としてのリニアに期待する人がいるならば、500km/h走行中の2分間を繰り返し見ていただきたいと思う。「沿線の人々の生活を壊してまで、こんなものに乗りたいですか?」


「リニアの強引無理 #15B:最大消費電力の推定」への1件のフィードバック

  1. 送電網からの電力供給の時間変化が大きいのではないかと思います。
    規準を超えると電圧と周波数が不安定になり、さらに高調波が発生すると様々な問題が起きると思います。
    電力会社では規準以内に収まるように求めているので加速が制限される可能性があるのではないでしょうか?
    回生ブレーキによって発電した電力がどのようにして使われるかも影響するはずです。
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    大半は中央からの指示で動くので通信系の信頼性(冗長性を含む)は極めて重要です。ぜひ続編で取り上げてください。

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