リニアの強引無理 #12:直下型地震による被害

前稿(#11)で、500km/h走行中でも、少し強めの地震ならば金属のストッパー輪が側壁にゴリゴリ押し付けられることを示した。

ストッパー輪は、厚み3cmほど、推定直径約30cmの金属製(ステンレスか)で、台車に片側2個ずつあり、出っ張りは約3cmと推定される(当シリーズ#2)。それらがコンクリートの側壁に押し付けられ、わずかな接触面積に重さ30トンが掛かる。かつ、列車は秒速139mで疾走中という、他ではあり得ない状況が起こる。

台車―側壁接触の単純化イメージ

図のように、直進している車体/台車に対して、地震で軌道全体が揺れ、側壁が速度vCで迫ってきて当たる訳である。グレー四角は台車を、黒い突起はストッパー輪を示す。

ガイドウェイ側壁は、連続した壁ではなく、長さ12.6m、高さ約1.6mの分厚いコンクリート板を並べたものである。それを現すために、破線で側壁を描いた。下部をボルトで固定する方式(逆T型)を採用しているようだ(リニアギャラリー参照)。

正確には、長さ12.58mのものを 12.6mピッチで並べるので、2cmのギャップが出来る(この論文の図-9)。ギャップは適切な材料でパテ埋めされるはずで、ゴムタイヤならば問題のない平滑さのはずだ。しかし金属輪では、ずっとシビアになる。

2cmのギャップや、コンクリート板の位置ズレ誤差(3mmまで許容)でも、金属輪は大きな衝撃を受けるだろう。秒速139mの台車は、このようなつなぎ目を1秒間に11か所も通過する。

速度vCで迫る側壁が台車が当たると、台車は弾かれる。台車にも側壁にも、意図的に衝撃を吸収する機構も材料もなく、可能な限り強固に作られている。塑性変形も破壊も起こらなければ、エネルギーは失われず、弾性衝突となるしかない。

高校物理の例題のように、台車はほぼ 2vCの速度で弾かれる。台車に比べて、側壁/ガイドウェイのほうがずっと重いからである(詳しくは後述)。一回の衝突で、磁気復元力を大きく上回る(横向きの)運動エネルギーを台車は獲得し、アッという間(〜0.1秒)に逆側の側壁に衝突する。

磁気復元力は、もはや全く役に立たない。弾かれた直後は、磁気復元力は中央向きの速度を高めてしまう。逆側に当たる直前は減速するが、差し引きは復元力ゼロの場合と同じになる。揺れるガイドウェイの中で、台車は横方向にほぼ自由運動する状況が起こってしまう。

台車と車体の接続

以上は台車だけを見ている訳だが、実際は空気ばねを介して、もっと重い車体が載っている(当シリーズ#2)。台車の重量は5トンと推定する。中間車両全体は約25トンと公表されているが、台車だけの重さは不明である。しかし、この論文に「一両約20トンもの重量」との記述があり、論文の趣旨からして台車は 5トンと解することができる。

出典 ja.wikipedia.org/wiki/超電導リニア       クリックして拡大

空気ばねは上下だけでなく、前後左右方向にも数cmの可動範囲がある(正確には不明)。さもなくば、カーブを曲がれない。空気バネの構造上、縦方向の動きには減衰力が強いが、横方向にはさほどでもないと思われる。

Wikiの写真に注釈を追加しており、リンクAには上下方向のダンパー、Bには横方向のダンパーがそれぞれ繋がり、車体と結合される。リンクCは左右中央に置かれており、台車と車体の前後方向距離を一定に保つためであろう。

空気ばねもダンパーも、車体から見て、台車の動きを規制するものであり、台車の重量5トンに見合う容量のはずである。リンクの細さからも、それが伺える。駆動コイルは、どの台車にも同じ駆動力/制動力を掛けるので、車体(客室部)と台車の接続部に、押したり引いたりの大きな応力が掛かることはない。

わずかな歪みや不整があるガイドウェイ内を、高速浮上走行ないしタイヤ走行する際に、台車の振動が伝わらないようにするためのメカニズムである。なので、台車の側壁への接触などに対応できる代物では、そもそもない。

衝突シナリオA:側壁のしなりと段差

台車のストッパー輪が側壁に接触しても、直ちには弾かれない。空気バネが横に変形している間は、車体が台車を側壁に押し付ける力が働く。例えば最大3cmまで横ずれが起こり得るとすれば、50cm/sで側壁が当たっても、3/50 = 0.06秒間ぐらいはストッパ輪が側壁に押し付けられたまま走るだろう。その間に、0.06s×139m/s = 8.3mも進む。

この0.06secの間、側壁の「しなる」ような変形が予想される。なにせ30トン(含む乗客/荷物)の荷重が、1つないし2つのストッパ輪に集中し、それが側壁の最上部に掛かり、底部がボルト留めされているだけなので、弾性変形しないように作るのは難しい。コンクリート内の音速は〜4km/sなので、しなりは台車の動きに遅れなく追随する。

しなっている側壁と、次の側壁とのつなぎ目で、段差が(規定の3mm以下でなく)5mmとか7mmとかに大きくなったらどうなるか? しなりは、端部のほうが大きくなることにも留意。

ストッパー輪は激しく弾かれ、反対側の側壁に向かう。この際、台車全体には右回りの強い回転力が掛かるので、比較的華奢な造りの空気ばね廻りが変形/破壊され、台車が捻れたままになる可能性がある。大きな段差ができれば、この最悪の状況は簡単に起こり得る。規定の3mmの段差でも、危ないように思える。

破壊されれば、車体が側壁を擦りっぱなしになる、あるいは台車がストッパ輪でなく「角」で側壁を擦るかも知れない。何れにせよ、強い制動力がかかる状況が起こる可能性が高い。

前側の車体は惰性のまま進むので、接続部は破断するかも知れない。他方、後ろの台車や車両は次々とぶつかり、互いに押しつぶすかも知れない。おそらく、死傷者数百人の大惨事になる。

これを避けるには、(接着剤で側壁のギャップを埋めるなど)強固に接続するのが一案だが、経年変化対応で側壁の位置調整や交換が難しくなるので、やらないのではないか。

変形や破壊には至らず、速い速度で跳ね返されるだけならば、それは次のシナリオBの範疇となる。

衝突シナリオB:数回の衝突で接続部の破壊

側壁段差の影響を、幸にも特に受けなかったとする。空気ばねの横ずれ変形が(内部のストップ機構で)ガシッと止まると、台車と車体は一体となって、ここでようやく弾かれる。

合わせて30トン(含む乗客/荷物)の重さは、側壁(1枚は約20トン)を含む軌道全体の(24.3mあたりの)質量数百トンよりずっと小さい。エネルギーの減衰は、横向きダンパーやゴムの内部損失に多少はあるが、比較的小さいと思われる。そうすると、初めに考察した弾性衝突のように、2vCに近い速度で弾かれる。

地震のエネルギーを吸収するものは特に設けていないのだから、破壊や塑性変形がないとすれば、ほぼ弾性衝突にならざるを得ない。

左右に数回ぶつかるうちに、一般には横方向運動エネルギーはさらに大きくなり、そして耐えきれずに何かが壊れる。最初の衝突から変形/破壊までは(起こるならば)1秒以内の短時間で起こるだろう。

最も壊れやすいのは、比較的華奢な造りで、側壁と衝突のたびに強いストレスが掛かる空気ばねなどの接続部である。壊れると、台車と車体がずれたまま、台車が捻れたまま、とかが予想される。車体か台車が側壁を擦り続けて、もはや左右に自由に動けなくなるだろう。

擦り続けると、側壁のわずかな段差に引っ掛かって破壊されるなど、とにかく強い減速力が掛かる。そこに後続の車体や台車が突っ込み、押しつぶす。やはり死傷者数百人の大惨事になるシナリオしか見えない。

まとめ

台車が側壁に衝突すると、超電導磁石はクエンチして、事態をより悪くするだろう。しかしクエンチする/しないは、さほど大きな影響を与えない。

側壁に当たるということは、地震のエネルギーが磁気エネルギーより大きいことを意味する。衝突のたびに、台車/車体は横方向の運動エネルギーを(一般的には)増やし、磁気エネルギーよりずっと大きくなる。

台車/車体には、横方向運動エネルギーを散逸/減衰する仕組みがほぼない(小さいダンパーのみ)。構造的に強くなくストレスが掛かるので、空気バネなどの接続部が塑性変形するか破壊されるだろう。車体ないし台車が、側壁を擦り続けて急減速すれば、後続の台車/車体がぶつかって押しつぶす。死傷者数百人の大惨事に至る可能性が高い。

最初の衝突から変形/破壊までは、短時間(1秒以内)で起こる。回生ブレーキもタイヤ出しも全く間に合わない。

L0改良型の改悪

クリックして拡大、出典:トラベルWatch

最後に、L0改良型で、危険な改悪が為されたことを指摘する。右写真の矢印のように、台車部の前後で車体側部が張り出すようになった。

出っ張った台車が起こす乱流を、少しは抑制するのが狙いと思われる。下の写真のように、張り出し部には、台車との隙間を塞ぐカバー(ぶかぶかした分厚い布)が固定されるので、それなりの強度があるはずだ。

張り出し部は、台車とほぼ面一になっているように見える。もし面一で、空気バネの横ずれが3cmにもなるとしたら、ストッパ輪の位置まで飛び出してしまう。

クリックして拡大、出典:リニアギャラリー

すなわち車体の張り出し部が側壁に接触する畏れがある。一瞬でも擦れば、バリバリと剥がれるように破壊されてしまうだろう。案内コイル(のカバー)も破壊され、破片がそこら中にばらまかれるだろう。そういう危険性に直結する改悪である。

6/13追加:「離陸」で超大惨事に

別稿で書くつもりであったが、本稿に付け加えるのが適切と思われる。

縦揺れがいきなり始まった時、先頭車両は通常の高さより数cm上方に浮く可能性が高い。その一瞬に、車体底部と軌道との間に空気が入れば、あの形状からして浮力が働き、先頭車両全体が軌道から飛び出す可能性がある、まるでレースカーの大事故のように。極めて恐ろしい想像を絶する大惨事になるだろう。

この可能性は明らかに存在するが、何cm浮けば危険になるかが問題で、空力計算で調べるしか無い。危険が現実的に起こり得るならば、空気抵抗を犠牲にしてでも、浮力が生じないような先頭車両形状に改善すべきであろう。


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