リニアの強引無理 #16:すれ違い問題は減速で回避か

3両編成/明かり区間で、相対速度1025km/hのすれ違い試験に成功と2004年に発表して以降、不思議なことにすれ違い試験の情報は20年間も途絶えている。あれから実験線は単線となり、すれ違い試験を行うのは不可能なままである。

当時、トンネル内でも3両編成ですれ違い試験を行ったが、相対速度を900km/hに抑えている(500と400km/h)【2003論文】。おそらく、この辺りが車体の風圧設計限界なのだろう。

16両編成、500km/h、トンネル内のすれ違いとなれば、3両編成のほぼ2倍の気圧変動になると、上記論文は示している。車体が気圧変動に耐えられず、未だに解が見つからないから、それ以上のすれ違い試験を避けていると、憶測せざるを得ない。

すれ違い時は、400とか350km/hに減速して問題を回避」と予想する。気圧変化は速度の2乗にほぼ比例というので【2003論文】、(400/500)2=0.64倍ないし(350/500)2=0.49倍に抑えられる。350km/hなら確実にOKなはずである。問題は、所要時間がどれだけ増えるかである。

上図に、400km/hと350km/hまで減速する場合に付き、速度と距離の関係を示した。加速や減速に要する時間/距離は、前稿#15Bでも紹介した試乗動画から分かる。400km/hないし350km/hを維持する時間は、30秒と仮定した。これは純粋な仮定である。16両編成がすれ違う時間は4秒足らずで、すれ違う位置は中央制御で正確に決められるものの、すれ違い前後の気圧変動が落ち着く時間を配慮した。

400km/h減速の場合、減速走行時間は102秒で、この間の距離 12.4kmを500km/hのまま走っていれば89秒で通過する。ゆえに、わずか13秒しか遅れない。

350km/h減速の場合は、減速走行時間は128秒で、500km/h走行の106秒に対して、22秒しか遅れない。遅れは意外と短い。

営業初期の運行は5本/時との想定で、すれ違いは7回あると思われ、計91/154秒遅れることになる。これは許容範囲か?

しかし頻繁な減加速は、不快さの新たな要因となる。特に減速度は -0.14Gと大きく、自動車の軽めブレーキ相当である。車内を歩くのも、立っているのも難しいと思われる。

リニアの乗り心地は、気圧変化、絶え間ない騒音、様々な振動、暗闇にトンネル照明チカチカなどに加えて、頻繁で大きなな加減速が加われば、さらに不快になるのは確実である。

350km/hのとき、すれ違い1回あたりの減速走行時間は128秒、7回すれ違えば、計15分間も減速することになる。速度感が明らかに違うので、乗客はなぜ遅くするのかと不信感を抱き、イライラするのではないか。

すれ違い時の減速は、おそらく350km/hになろうが、ダイヤや増発余地への強い制約になると思われる。最大運転本数は毎時10本とされるが、そうなれば14回ものすれ違いとなり、大半の時間は500km/h以下で走行することになる。品川―名古屋間の所要時間も40分 → 43分とかになりそうである。

リニアの強引無理 #15B:最大消費電力の推定

リニアの消費電力が最大となるのは加速時と言われるが、もちろん公表されていないし、具体的な数字を推定した例も知らない。そんな折に、かねてから最も有用と思っていたこの試乗動画を再度観ると、加速度が丸わかりであった!

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リニアの強引無理 #15A:トンネル換気電力の見積もり

3.5万kW(500km/h巡航時の消費電力)の大半が、空気摩擦として費やされるので、トンネル内の温度は上昇する。トンネル換気の必要性に付いて、国交省2010の P. 37に次の記載がある:

「実際走っていく場合の発熱の影響が確かにあります。例えば空気を切ることによる発熱、これによってトンネルの中の温度が上がるということで、基本的にはこれは換気で切り抜けられるとは思っております。」

1列車通過でトンネル内気温はどれだけ上がるか?

 ΔT = 消費エネルギー/質量/比熱 = 2.9℃! 続きを読む リニアの強引無理 #15A:トンネル換気電力の見積もり

リニアの強引無理 #15:消費エネルギー/CO2排出量比較

クリックして拡大。下部に出典と引用値(青字)をまとめ、表中の青字は引用値ないし直に計算できるものを示し、関連定数は中段にまとめた。中電の排出係数は年度ごとに変動するので、不確定要素。

結果は上画像に集約される。要点は:

・5万kWが500km/h巡航時の総消費電力(とJR東海は認識)
・3.5万kWからの増加要因に換気電力も加えれば、5万kWを説明できる
・N700系と比べ、リニアは4倍の消費電力、(定員が少ないため)7倍のCO2排出量
・リニアの環境性能は、新千歳―羽田航空便と同程度
・リニアの環境性能は、10km/Lのガソリン車にも劣り、8km/L相当 続きを読む リニアの強引無理 #15:消費エネルギー/CO2排出量比較

リニアの強引無理 #14:「CO2排出量は航空機の1/3」は捏造

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次稿 #15 で消費エネルギー/CO2排出量を比較する前に、本件を指摘しておきたい。

JR東海は、画像のように「リニアのCO2排出量は航空機の1/3」と主張している(マジェンダは筆者コメント)。多くの資料でも使用しているこの数字は、ウソ/捏造と言うべきである。

この数字を導き出すトリックは:

『長距離仕様のB777-200を比較対象とし、(本来使われない)短距離側に外挿』 続きを読む リニアの強引無理 #14:「CO2排出量は航空機の1/3」は捏造

リニアの強引無理 #13A:緊急停止時間と距離、ディスクブレーキ発熱に不安激増

前稿 #13 で判明したのは、「ブレーキ装置を全て使用して急減速」という看板は偽りであり、JR東海/国交省は以下を想定していること:

Α)通常は、回生と空力ブレーキのみで、発火リスクのあるディスクブレーキは使わない
B)停電時のみ(回生ブレーキなし)、止むを得ずディスクブレーキを使う

本稿では、簡単なモデル計算により停止時間/距離を求めてみる。結果を先に示すと、図のような減速特性となる。

続きを読む リニアの強引無理 #13A:緊急停止時間と距離、ディスクブレーキ発熱に不安激増

リニアの強引無理 #13:地震と緊急停止と設計欠陥

クリックして拡大 出典:2010国交省資料 P. 28

本稿では、緊急地震速報が出て、車両が減速し始めてから、揺れが到来する場合を考察する。

左図のように、速報を受けたら「ブレーキ装置を全て使用して急減速」とJR東海は想定している。

緊急停止の状況を具体的に考察すると、2つの深刻な設計欠陥が見えてくる。それらは、大惨事や火災に直結し得る。 続きを読む リニアの強引無理 #13:地震と緊急停止と設計欠陥

リニアの強引無理 #12:直下型地震による被害

前稿(#11)で、500km/h走行中でも、少し強めの地震ならば金属のストッパー輪が側壁にゴリゴリ押し付けられることを示した。

ストッパー輪は、厚み3cmほど、推定直径約30cmの金属製(ステンレスか)で、台車に片側2個ずつあり、出っ張りは約3cmと推定される(当シリーズ#2)。それらがコンクリートの側壁に押し付けられ、わずかな接触面積に重さ30トンが掛かる。かつ、列車は秒速139mで疾走中という、他ではあり得ない状況が起こる。

台車―側壁接触の単純化イメージ

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リニアの強引無理 #11:耐震性低い、200galで危険域

「高速時は(>150km/h)10cmほど浮上し、案内力も強いので、地震に強い」とJR東海は主張するが、果たして実際どれくらいの地震加速度に耐えるのであろうか? 結論は表題の通りで、案内力が最も強い500km/h走行中でも、200gal超の外力でストッパー輪が側壁に接触してしまう! 

案内力は、最大で0.4G相当

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2010年国交省資料 P. 28の右上図にある『左右ストッパー輪が接触する左右変位で、約12tの押し戻す力が作用』との記述に注目する。案内力(軌道の中央に戻す力)が最大でどれくらいかを、分かり易く表現している。意外に弱いというのが第一印象である。(ストッパー輪については、本シリーズ#2を参照) 続きを読む リニアの強引無理 #11:耐震性低い、200galで危険域

リニアの強引無理 #10:少ない投資、遅れる工事

グラフは、JR東海が公表した工事費の計画額と実績額である。実績額は 2024年3月期決算説明会資料のP. 19にまとめてあるし、計画額は各年度の「重点施策と関連設備投資について」に記載されている。

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