7/1、政府は唐突に、韓国への半導体材料の輸出管理を厳しくすると発表した。フッ化ポリイミド、レジスト、(超高純度)フッ化水素の3品目につき、輸出ごとに審査・許可する方式に切り替える。この3品目は日本企業が9割超の世界シェアを持ち、もし輸出が滞ると韓国の主力産業である半導体、ディスプレイ業界に深刻な影響がある。主な顧客企業は、Samsung電子、LGエレクトロニクス、SK Hynixなどである。
7/3、世耕経産相は5連続ツィートで、管理を厳しくする理由を説明している。4番目に
「・・・これまで両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上で、旧朝鮮半島出身労働者問題については、G20までに満足する解決策が示されず・・・信頼関係が著しく損なわれた」
と記している(一部省略)。
徴用工問題(慰安婦やレーザー照射も含む)への対抗措置だと明確に述べている。どう読んでも、二国間の問題解決に向けた姿勢は見えず、子供じみた嫌がらせの発想しか感じられない。平たく言えば「文在寅が気に入らない! 3品目を規制して困らせてやる!」であろう。
このような感情的、恣意的な理由での輸出規制は、WTOでは認められない。世耕ツィートの説明では正当性は全くない。G20で自由貿易を謳った直後に、真逆の行動をする日本政府を、国内を含む世界中のメディアが批判している。例えば、時事通信、JBress、毎日、朝日、文春、海外紙論説のまとめなどである。
この説明ではマズいと政府も気付き、直ぐに「安全保障上の理由」と変えている(世耕ツイートに「安全保障」という言葉は全く登場しないのに)。「安全保障上」と念仏のように言うが、記者会見でもWTOの場でも、政府は具体的な説明を一切行っていない。韓国の輸入管理のどこが問題なのか、具体的に指摘することが出来ないからであろう。
「3品目」は最先端の半導体/ディスプレイ工場向けで、客先でも厳重に品質管理され、他への流用は出来ないし無意味である。フッ化水素はサリンの原料になり得るが、オウム真理教でも作れるように、比較的容易に入手できる単純な化合物である。わざわざ非常に高額な超高純度品を仕入れる意味がない。韓国政府による不正輸出摘発リスト中に、フッ化水素を見つけて、フジテレビが大々的に取り上げたのは、無知を晒すだけで、笑止でしかない。
規制は全世界に影響しうる
もしSamsung、SK Hynixなどの生産に現実の影響が出れば、世界的な大問題になる。例えばDRAMの世界シェアは、SamsungとSK Hynixとで74%も占める。ほぼ全ての電子機器に使われるDRAMが不足すれば、世界中のセットメーカー(Apple、HP、Foxconn、Sonyなど)の生産にまで影響が及ぶ。そうなれば、韓国だけでなく世界を敵に回してしまい、日本は孤立することになる。
7/23、米国のハイテク業界6団体が連名で(つまり全てのハイテク企業と言える)、世耕経産相とオ・ミョンヒー韓国貿易大臣宛に、早期解決を求める要請文を送っている。二段落目後半に
「輸出管理政策の不透明で一方的な変更は、サプライチェーンの混乱、出荷の遅延、そして最終的には日本や韓国の国境を越えて活動する会社や雇用者に長期的な害を及ぼす可能性があります」
との行があり、日本政府をはっきりと批判している。
この時点で日本政府は負けている。「3品目」を実際に規制することは、もはや出来ないであろう。要請文は米国や韓国ではもちろん報道されているが、国内では全く見つからない。日本政府にはよほど不都合なのだろう。8/8、規制後初めて、レジストの輸出を政府は許可した。
売り手が「売らない」と言うほどバカなことはない。たとえコブシを降ろしても、振り上げた事実は変わらない。客は代替えを全力で探し、無ければ代替メーカーを育てようとする。韓国は実際そう動き始めた。貴重な高競争力を持つ半導体材料業界にとって、安倍政権は彼らのビジネスを妨害し、将来に暗雲を呼び寄せているだけだ。
ホワイト国指定からも除外
8/2、政府は予告通り、安全保障上の友好国である「ホワイト国」指定から韓国を除外すると発表した。8/28の施行以降は、日本の業者は韓国に輸出する全ての製品について、その度に通関手続きを申請しなければならなくなる。
友好国ではないとの宣言も同様なので、韓国が強く反発するのは当然だろう。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の可能性まで言及している。
韓国内での日本製品不買運動が拡がっている。韓国紙によると、すでに7月で、日本産ビールの輸入が45%減、韓国内でユニクロの売り上げが70%減、無印良品は59%減、自動車は30%減(対6月、本格的な影響は8月以降)、日本への旅行予約は60%減などの壊滅的な数字が並ぶ。韓国への輸出額6兆円は、どこまで減ることか?
徴用工問題がこじれたのは
「日韓請求権協定で解決済み」と安倍政権は繰り返すが、徴用工訴訟を誘引したのは、実は日本政府の国会答弁である。当時の外務省条約局長・柳井俊二氏は「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」と答弁している。これと矛盾しない形で、原告は韓国民間人、被告は韓国内で営業する日本企業という民事訴訟になっており、日韓両政府とも本来は無関係である。
2013年7月に高裁判決が出たとき、原告側は和解を要求し、被告の新日鉄住金は上告したものの大法院(最高裁)で確定すれば賠償する意向を示していた。中国人徴用工に対して、日本企業は和解で応じ、円満解決している先例があり、日中両政府が表に出ることはなかった。
しかし安倍政権はしゃしゃり出て、和解拒否を韓国政府に伝達した。当時の朴槿恵政権なら何とかなる、との読みだったのかも知れない。個人対日本企業の訴訟を、安倍政権は、韓国対日本にすり替えてしまい、円満で容易な解決をわざと難しくしたことは間違いない。現状の混乱を招いた責任の過半は、安倍政権にあるのではないか。異常な強硬姿勢や、徹底した報道操作・統制は、自らの大失敗を糊塗するためのようにも見える。
世界の悪役国へ
「3品目」規制は、中国のレアアース輸出規制(2010~、尖閣絡み)とそっくりの愚行である。中国レアアース業界は、日本などの対抗処置(使用量減、別調達先開拓)により、壊滅的な影響を受け、赤字に転落し再編を余儀なくされた。WTOでも敗訴し、2015年に規制を撤廃した。国際的信用など、中国にとって失うものばかりだった。
もしドイツがポーランドに対し、「ホロコーストはもう終わったことだ。アウシュビッツ博物館が気に入らない。輸出規制だ」と言ったら、世界はどう反応するだろうか?
「慰安婦も徴用工も終わったことだ。何時までも文句言うのが気に入らない。輸出規制だ」と韓国に対して、正にこれをやっているのが安倍政権だ。しかも歴史教科書に、慰安婦も徴用工もほとんど記述がない。
対韓輸出規制は、日本の国際的信用を失墜させ、経済的損失を今後膨らませるだけだ。この幼稚なやり方で、何かが得られるとでも思ったのだろうか? 信じられない愚行の背景には、安倍政権の醜い歴史改竄・隠蔽の姿勢があることが見抜かれている。安倍政権の7年ほどで、日本はおそらく世界で最も信用できない卑劣な軽蔑される国家に成り下がったのではないだろうか。