3.5万kW(500km/h巡航時の消費電力)の大半が、空気摩擦として費やされるので、トンネル内の温度は上昇する。トンネル換気の必要性に付いて、国交省2010の P. 37に次の記載がある:
「実際走っていく場合の発熱の影響が確かにあります。例えば空気を切ることによる発熱、これによってトンネルの中の温度が上がるということで、基本的にはこれは換気で切り抜けられるとは思っております。」
1列車通過でトンネル内気温はどれだけ上がるか?
ΔT = 消費エネルギー/質量/比熱 = 2.9℃!
・消費エネルギー/km: 3.5万kW/500km/h = 70kWh/km = 2.52×105 kJ/km
・空気質量/km:74×1000×1.17 = 0.87×105 kg/km(20℃)
――トンネル有効断面積:74 m2、空気の比重:1.17kg/m3(20℃)
・空気の比熱:0.242 kcal/kg/deg = 1.0 kJ/kg/deg
なんと 2.9℃も上がる! 驚きである。上の計算には、曖昧さも恣意性も全くない。はっきりと分かっている数字ばかりである。
1列車のみでこれだから、毎時 10往復なら、気温上昇は1時間で+58℃にもなり得る(10往復は最大可能運転本数で、開業当初は 5往復の想定)。強力な換気は必須である。
もちろん空気の熱は、コンクリートにも伝わり、トンネル壁外の岩石へとゆっくり伝わる。しかし長い時間を考えれば、熱の伝導は平衡に達して逃げにくくなる。新たに発生した熱は、ほぼ全てを大気に放出する必要がある。さもなくば、どんどん熱が溜まって高温になってしまう。
総排熱量と所要換気能力
換気設備は非常口に設置されるので、約 5km間隔となる。一つの設備が、前後 2.5kmずつ、計5kmを分担すると想定する。
温度上昇を 10℃程度に抑えるため、例えば 12分間で空気を全部入れ替えねばならない。片側で 2.5kmも空気を移動させるので、2.5km/12分 = 3.5m/s の流速が必要である。
5km区間で、リニア列車 10往復/時が出す総排熱量は、70kWh/km×5km×20列車 = 7000 kWhにもなる。つまり、700Wヒーターを 1m間隔で上下線それぞれに 5000個並べた排熱量である!
換気設備の専門家ならば、これらの数字から所要換気電力を見積もれるだろうが、素人には無理である。よって、既存の自動車道換気設備と比べることで、推定を試みる。
自動車道の排熱量との比較
燃費 10km/Lの車が 5km走れば、ガソリン 0.5Lを消費する。その燃焼エネルギー(0.5L×34.6MJ/L = 4.8kWh)のほとんどが、結局は熱となってトンネル中に放出される。毎時 1460台通過するとすれば、1460×4.8 〜 7000kWhなので、リニア列車 10往復/時の総排熱量と等しくなる。
首都高山手トンネルは、一方向(2車線)〜1500台/時ぐらいであり(24時間平均、区間による)、リニアトンネルの排熱量に近く、トンネルサイズも近い。
山手トンネルの大橋JCTー大井JCT間(8km×往復)の換気設備については、この論文に詳しく紹介されている。その設備容量を合計すると、5470kWh。
リニアトンネル 5km分の所要電力は、5470×5km/8km/2 = 1710kWh。求めようとしているのは、1列車の1km分なので、17.1kWh/km。
もちろん明かり区間や短いトンネルでの換気は不要なので、換気が必要な区間の割合を見積もる必要がある。非常口は都市部以外でも換気にも使われるとする。非常口は 41ヶ所あるが、うち 2ヶ所では 2つが近接してるので、41-2 = 39ヶ所とする。それぞれが 5km分を担当するなら、39×5/286 = 0.682。つまり 68.2%の区間で、換気が必要と推定される。
よって、トンネル換気電力の平均は、17.1kWh×0.682 = 11.7kWh/km。これが本稿の結論であり、前稿で採用した値である。
===
山手トンネル内発熱量の見積もりは、燃費 10km/Lの車で代表させているが、大型車も 20〜25%ぐらいは走っているので、甘いかも知れない。しかし大抵は順調に流れているので、カタログ燃費よりも良いはずである。
換気設備容量を常時 100%使うわけではないので、リニアの所要電力とするには過剰かも知れない。しかし、山手トンネルは車の流れを利用できるのに対して、リニアはすべてを送風機で賄わなくてはならない。かつ換気すべき距離が片側 2.5kmと長い。
特に送風側は、トンネル下部を流路にすると思われるので、全断面積の 25%以下ほどしか使えない。送風抵抗が大きく、電力をより多く消費するはずである。風速は、排気側~3.5m/sに対して、送風側~9m/sが必要と推定される。このように、リニアにはいろいろと換気電力の増加要因が残っている。
ところで、実験線には約 23kmのトンネルがある(リニア見学センターの西側)。途中の明かり区間を3ヶ所も防音フードで覆ったため、ここまで長くなった。現状、換気設備はないが、必須になるはず。どういう工事をやるのだろうか?
実験線や山岳部のトンネル断面は、円形ではなく、円の下部を切り取った形状なので、送風用の流路を取れない。換気設備は、一つおきに送風、排気専用とするのだろうか? 空気を 5kmも動かさねばならず、流速を倍の〜7m/sにしないと温度上昇を抑えられない。換気電力の増加要因ばかりである。
リニアの換気システムは、列車通過やすれ違いに伴う急激な気圧変化に晒される。換気ファンなどが、それに耐えられるのかどうか深刻な技術的懸念がある。
画像は、品川区で開催されたリニア事業説明会資料の P. 49である。列車通過時の気圧変動による騒音が換気塔から漏れ出ないように、換気ファン手前のシャッターを閉めるとのことである。疑問がいろいろある:
・10往復/時の時、1時間に20回も開け閉めするのだろうか? 換気効率がガタ落ちではないか? 現実的とはとても思えない。
・シャッター自体が気圧変化に耐えられないのではないか?
・換気ファンの負荷変動をどうするのか? 回転数を変えるのか? バイパスか?
・いずれにせよ巨大なものを頻繁に動かさねばならず、故障が多発するのではないか?
換気だけでも、技術的にたいへん難しいように思われる。
トンネル内の温度は外気の影響を受けにくいということですが、取り入れ口の気温はどのように計算に反映されるのでしょうか?
この風速だと避難する人への負担が大きいように思います。換気装置が動いていれば、ですが。