リニアの強引無理 #13:地震と緊急停止と設計欠陥

クリックして拡大 出典:2010国交省資料 P. 28

本稿では、緊急地震速報が出て、車両が減速し始めてから、揺れが到来する場合を考察する。

左図のように、速報を受けたら「ブレーキ装置を全て使用して急減速」とJR東海は想定している。

緊急停止の状況を具体的に考察すると、2つの深刻な設計欠陥が見えてくる。それらは、大惨事や火災に直結し得る。

停止まで70秒以上

まず500km/h(= 139m/s)走行中ならば、停止までどれくらい時間が掛かるか推定する。「新幹線の約2倍の急減速」との記述が上図にある。新幹線は、通常 2.70km/h/s = 0.75m/s2、非常時 3.64km/h/s = 1.01m/s2の減速度なので、リニアは最大 2m/s2 = 0.2Gで減速できると解釈する。

ちなみに、リニアの通常運転での減速は、回生ブレーキだけを使い、0.14Gぐらいである。レール式の在来線列車では、緊急停止時に最大でも 4.5km/h/s = 1.25m/s2 = 0.13G とされる。レールと鉄輪の摩擦力からしても、ほぼ上限であろう。この減速度でも、いきなり掛かれば、立っている多くの乗客が転倒してしまう。通常運転では、その半分の 0.06Gぐらいである。

リニアでも、たまたま立ってる人も居るので、いきなり急減速はできない。望ましくは、アナウンスをしながら、減速Gをゆっくり立ち上げるべきである。例えば、「緊急地震速報を受信しました。急減速します。座席にきちんとお座りください。お子様は抱きかかえて下さい!」と繰り返しつつ、10秒間ぐらいを掛けて 0.2Gにまで上げる。急減速で乗客を転倒させるようなことがあってはならない。地震は来ない(速報が外れる)こともあり得るのだから。

現実的にも、減速度は一気に立ち上がらない。回生ブレーキは素早く掛けられるが、空力ブレーキはまず「空気抵抗板」を車体上方にせり出さねばならず、ディスクブレーキはまずタイヤを接地させることが必要である。いずれも5秒近く掛かると推定される。

最初の10秒間は平均 0.1G = 1m/s2で減速とすれば、139 – 1.0×10 = 129m/sに速度は落ちる。その後は、0.2G = 2m/s2で減速としても、停止まではさらに 129/2 = 64.5秒を要する。計74.5秒もかかる。さらに、速報から減速操作を開始するまでの、数秒の遅れを加えねばならない。停止距離は5kmぐらいになる。

速報から揺れの到達までは「数秒から数十秒」とされるので、停止する前に揺れが到達するのは確実である。20秒後とすれば、その時の速度は 109m/s = 392km/h、30秒後でもまだ 320km/hと非常に高い。

なお、空力ブレーキは速度低下とともに効かなくなるので、減速度が 0.2G一定とした上の見積もりは、停止時間/距離を過小評価している。実際はもう少し長くなるはずである。

タイヤ走行中に本震で「脱線」リスク大

クリックして拡大 出典:リニアギャラリー

大きく揺れる軌道内を、高速でタイヤ走行すれば、最も懸念されるのは「脱線」である。写真のように、案内タイヤ(マジェンダ矢印)は側壁の上端部約20cmに当たる。案内タイヤが上端からはみ出すことを、本稿では「脱線」と呼ぶ。

案内タイヤが「脱線」すれば、側壁上端を激しく擦り、台車下部は側壁下部を激しく擦り、案内コイルなどを片っ端から破壊するだろう。

当然、強烈な制動力が掛かるため、慣性で進む列車前部との連結機構は破壊されるだろう。やはり慣性で進み続ける列車後部は、脱線した台車に次々とぶつかり、互いに押しつぶすだろう。死傷者数百人の大惨事が予想される。もし台車が破壊されて、台車が軌道を堰き止めるようなことにでもなれば、さらに悲惨な事態になる。

台車が前上がりの姿勢となり、案内タイヤのどちらかが一瞬でも強くグリップすれば、脱線するだろう。地震に伴う上下の揺れで、下図のように前上がりの姿勢となる瞬間は頻繁に発生するだろう。というか、次項で述べるように、設計欠陥のため、このような「ピッチング」が生じやすいのである。

前上がりのピッチングは危険

16両編成では、先頭と最後尾を除く、15の台車でこのような姿勢になる可能性がある。そのどれか一つに、横揺れにより案内タイヤに強いグリップが掛かれば、脱線してしまう。確率の問題でもある。1つの台車だけなら(例えば) 5%の低確率でも、編成全体では15乗されるので、1 – 0.9515 = 54%の確率で脱線という計算になる。

案内タイヤには外側に張り出す力が掛かっている(さもなくば、左右にフラフラする)。タイヤが半分くらいはみ出せば、ゴムの変形のために、軌道内には戻れず、タイヤがまるまる飛び出して「脱線」するのではないか。そういう意味で、側壁の高さの余裕は10cmしかないと言える。余裕があまりにも無さすぎる。

設計欠陥#1:ホイールベースの外側で車体を支持!

上図において、ドーナツ形は支持タイヤを、黒い台形は空気ばねを表す。横方向の相対的な位置はリアルに描いてある。支持タイヤの間隔(ホイールベース)は約2.66mで、意外に短い。問題は、空気バネの位置がホイールベースの外側にあることだ。

後ろ側の車両の重量は、もっぱら後タイヤにだけかかり、前タイヤを持ち上げる力が働く。逆もしかり。本来は、ホイールベースを出来るだけ長く、空気バネの位置はホイールベースの内側に(余裕を持って)配置すべきなのである。

通常は超電導磁石で支えられるので、この空気ばねの位置でも問題は無かろうが、タイヤ走行への配慮、かつ地震で揺れる軌道内を走行する際への配慮が、無いように思われる。

例えば、後タイヤ側が1cm沈み、前タイヤ側が1cm伸びた前上がりの姿勢を想定する。この角度のまま、案内タイヤが強くグリップすると、2.66×5 = 13.3m進めば、10cm持ち上がることになる。つまり前側の案内タイヤは半分はみ出して、脱線の崖っぷちになる。わずか1cmの前後伸縮差、時間にして 0.14秒で(350km/h走行時)、起こってしまう。

タイヤの出し入れは、ストローク30cmほどの油圧機構であり、内部には窒素/オイルを封入してバネ/ダンパーとしてある。つまり、タイヤは数cm上下動できるように意図されて作られており、数cmの前後伸縮差は当たり前のこととして起こる。

台車の基本設計に安定性が欠けているので、地震で軌道が上下左右に大きく揺さぶられる中、台車はしばしば前上がりの危険な姿勢になり、かつゴムタイヤで 300km/h超の高速で動いている。脱線のリスクはかなり高いと推察する。

タイヤでの高速走行は、緊急停止時に起こるリニア特有の深刻な懸念である。タイヤを出すと、浮上走行時より約10cm車体位置は高くなる。わざわざ脱線リスクを高めている。

タイヤを直ちに出すことがより安全なのかどうかは、大いに疑問である。タイヤを出さなければ、前稿#12の通りとなり、どちらがマシかは筆者も分からない。どちらにしても怖すぎるとしか言えない。

この台車の設計欠陥ゆえに、車両の重量バランスを常に保つことがたいへん重要である。座席指定も、前から詰めたりは禁物で、中央から端へバランス良く割り当てねばならない。乗客を含めた車両の重量がほぼ均等になるように、座席を各車両にバラ撒いて割り当てねばならない。だから団体客が複数の車両に割り当てられたりするだろうが、発車後に一つの車両に集まるようなことは強く禁止せねばならない。

特にトイレなど、重量バランスを崩しそうな重い設備を持つ車両には、特別の配慮が必要である。車両の中心部に設置するのか、台車を挟む2両にバランス良く設備を振り分けるのか、慎重な検討が求められる。

高速タッチダウンのリスク

高速でタイヤを接地させる操作そのものにも、リスクが多い。通常は150km/hなのに、500km/hでのタッチダウンに、果たしてタイヤが耐えられるのだろうか?

支持、案内タイヤ合わせて136本のうち、1本でもフラットスポットが出来ると、台車に激しい振動をもたらし、脱線や破壊の誘引となる。

支持タイヤのフラットスポットは縦揺れを起こし、台車の4隅の一つが、激しく上下に揺さぶられる。案内タイヤのは横揺れを起こし、台車は(左右前後のどれか一つの)側面から激しく揺さぶられる。正常な場合に比べて、脱線リスクが高まることは疑いもない。

もし共振が起これば、台車と車両の接続部が最初に破壊されるだろう。台車と車両の位置関係が狂ってしまい、台車か車両が側壁を激しく擦り、大惨事に至るだろう。

フラットスポットよりも悪いのはバーストで、台車の姿勢が狂ったままになる。特に後ろ側の支持タイヤがバーストすると、ブレーキを掛けた一瞬に脱線してしまう。

右側後輪のバーストとすると、緊急着地輪がコンクリート路盤にゴリゴリと接地し、台車は左前上がりの姿勢になる。ブレーキを掛けると、台車には左回りの回転力が掛かり、左側の側壁に押し付けられ、左側の案内車輪は強くグリップして、瞬時に脱線する可能性が非常に高い。

これは揺れとは無関係であり、タイヤを着地させて、ブレーキを掛けたその瞬間に脱線する。まだ500km/h近い高速なので、上ですでに述べたよりも、もっと激しい大惨事は不可避である。

設計欠陥#2:ブレーキの発熱をどうするのか?

出典:AeroExpo

ディスクブレーキ自体にも懸念がある。写真ような航空機用のABS(Anti-Lock)制御付きのものを転用するようだ。これをタイヤの中央部にはめ込んで使う。

短時間の動作では問題ないであろう。しかし停止するまで60秒間も掛け続けるならば、非常に高温になる。摩擦板を多重に組み合わせる構造そのものが、放熱を無視して、コンパクトさを追求している。

カーボン製のロータ/ステータは 900℃でも耐えるが、ホイール(アルミ合金)やタイヤは高温に耐えられない。ホイールは溶け、タイヤは燃えてしまう。

航空機では、主にジェットエンジンの逆噴射で減速するので、ディスクブレーキが使われるのは短時間だけである。タイヤは剥き出しなので、周囲の空気で冷えやすい。よしんば発煙したとしても、飛行場には常に消防隊が待機しているので、大事に至ることはない。

しかしリニアでは、タイヤは台車の底部に隠れた形であり、熱は逃げにくい。熱を逃がすような空冷機構は設けられていない。ならば、少なくとも温度センサーを取り付けて、動作温度の上限を例えば300℃として、絶対に発火しないような制御が必要である。止まったは良いが、あちこちの台車から煙が上がりタイヤが燃えるとかは、論外である。

論外なのに、国交省資料 P. 30ではサラッと「ディスクブレーキによるエネルギー吸収を行うことから、発火源となる可能性がある」と記している。その右には、特殊な状況でしか起こらないとも書いているが、ウソである。地震速報を受けての緊急停止では、ほぼ確実に起こる問題である。

発火の危険ありと、明確に認識しながら、それを防ぐ手立てを何ら示していない。「火事はすぐには拡がらないから、その間に避難しろ」としか書いていない。国交省鉄道局の公開資料が、かくも無責任とはいい加減にもほどがある。公共交通機関を担当する資格がない。

発熱は各台車でほぼ均等であるが、後ろの台車ほど前で発生した熱の影響を受ける。ローターの温度を測れれば、後ろの台車ほど高くなるのは間違いない。もし発煙/炎上するとすれば、最後尾の台車からだろう。

片や+数百℃のブレーキに対して、一方は-260℃の超電導磁石と冷凍機である。この2つが台車内で隣り合っているのである。後ろの台車の冷凍機ほど、熱せられた空気の影響を受けて、冷却が間に合わなくなる。

もしクエンチするとすれば、最後尾の台車からだろう。そうすると、回生ブレーキ能力が失われるので、最後尾の台車/車両は前を押すことになる。最後尾から次々とクエンチが起これば、どこかの台車/車両接続部が破壊されて、新たなシナリオで大惨事になり得る。

これを防ぐには、ディスクブレーキの温度を(冷凍機の状態も)常に監視して、使用制限すれば良いのである。しかし次に述べるように、それも出来なさそうな状況もあるので、さらに怖くなる。

停電したら、止まれない? 炎上する?

もし停電したら、回生ブレーキは働かないので、タイヤのディスクブレーキと空力ブレーキに頼るしかない。減速度は 0.06Gしかないので、上と同じような計算をすると、停止まで 232秒以上、ほぼ4分も掛かる。その間に16kmも走る。

4分もディスクブレーキを掛けっぱなしにしたら、どう考えても、ホイールは溶け、タイヤは燃えてしまうだろう。それを避けるためにブレーキを緩めれば、止まれない。一体どうするのだろうか? 大層なブレーキを装備しても、本当に必要なときに使えないのである。

停電したら、車両への電力供給も止まる。当然、電池を搭載しているはずだが、ブレーキのABS/油圧制御は相当の電力を消費するはずで、果たして何分保つのか不明である。電池切れで、すべての制御が不能、通信さえできなくなったらどうするのだろうか?

止まれたとしても、車内は真っ暗(トンネルの非常照明は生きてるはず)。乗客はドアを開けられるのか? 超電導磁石の冷却も止まり、次々とクエンチし、霧を盛大に吐き出しているかも知れない。ブレーキ周りから煙が出てたらどうするのか? トンネルの換気は止まっている。果たして乗客の運命やいかに?

国交省資料で、「停電」を検索すると、2か所しか出てこない。いずれも「停電しても(走行中ならば)案内コイルによる浮上/案内は機能する」とだけしか書いてない。停電した時どうするか、だれも真剣に考えていないのである。無責任極まりない。停電対応のシナリオさえ無いのであれば、開業などあり得ない。

なお、回生ブレーキは働かなくとも、案内コイルに誘導電流は流れるので、それは減速に寄与する。ゆえに、減速度 0.06Gは過小評価だが、定量的には不明。一方、空力ブレーキは低速になるとともに効果が下がるので、0.06G一定とするのは過大。上の停止時間見積もりは、過小と過大評価が入り混じったものである。

空力ブレーキの落とし穴

クリックして拡大 出典:リニア見学センター

右写真のように「板」を車体からせり出して、空気抵抗を増やすのが、空力ブレーキである。板は1両に2枚で、いずれも車両の品川寄り端から出ている(写真は手前が名古屋方面)。

クリックして拡大 出典:リニアギャラリー

板を出していない別の写真(右下、手前が品川方面)を見ると、品川よりの端には板の出し入れ口らしき形状が認められる(矢印A)が、名古屋よりの端はスムースでそれらしきものはない(矢印B)。

この非対称性は新たな懸念をもたらす。名古屋向きの場合はおそらく問題ないと思われるが、品川に進行中に空気抵抗板を出すと、台車が前上がりの姿勢になるからである。

板は空気を上に跳ね上げるので、その反力として下向きに力が掛かる。また板の後ろには乱流ができて気圧が高くなることからも、下向きの力が発生する。

何度も繰り返し書いているように、台車が前上がりの姿勢になるのはとても危険である。案内タイヤが(揺れなどにより)瞬間的に強くグリップすれば、たちまち脱線する。

空力ブレーキは、下向きの力も生じ、台車の前上がりを招く(品川向きの場合)

この弱点を無くすためには、空気抵抗板を車両の両側に設け、作動させるのは(進行方向に対して)後ろ側の板だけにすれば良いと思われる。

まとめ

2つの重大な設計欠陥があることを指摘した:ホイールベースの外側で車体を支持、ディスクブレーキの放熱を考えていない。どちらも深刻である。この2つを根本的に設計し直さない限り、リニアは安全に緊急停止できない!

6/18追加:航空機用ディスクブレーキは燃える前提で使う

Airbus社の解説動画に依れば、ディスクブレーキをフルに使えば、間違いなく炎上するものだと分かる。炎上することを前提として使用され、消防隊とか全ての対応が定められている。

Boeing 747-8のブレーキテスト動画に依れば、ブレーキを掛け始めた 0:58から、15秒後ぐらいには発煙が見られ、24秒後に停止した際には煙と炎が激しく吹き出している。

リニアに装備しても、駐車ブレーキぐらいにしか使えない。緊急時に使えば、15秒くらいで発煙/炎上するので、むしろ絶対的に使用禁止にするしかない。根本的に誤った技術選択である。

リニアには、回生と空力ブレーキしかないことになる。(地震がなくても)停電したら、回生ブレーキは使えず、リニアは止まれない。乗客を乗せられる代物ではない。中止しか無い。

7/2追加:高速ではディスクブレーキ、案内車輪を使わない!

2009技術評価の P. 45に、火災リスクに関連して以下2つの記載あり:

A)「高速から車輪ディスクブレーキが動作する故障
B)「案内輪は中速以下でのみ使用する

A)は、発火リスクがあるため、高速ではディスクブレーキを使用しないことを意味する。「故障」という強い表現が、決して使わないとの意志を明確に示している。

本稿の冒頭で、「新幹線の約2倍の急減速」との記述から最大減速度を 0.2Gと解釈したが、0.2Gにはディスクブレーキの寄与は含まれないことになる。回生ブレーキで 0.14G、空力ブレーキで 0.06Gという内訳になる。

本稿の補足となる次稿#13A で示すように、回生と空力ブレーキだけで、92秒ほど、6.3kmで停止できる。「90秒前後で停止可能な設計」との報道と辻褄が合う。

ゆえに、ディスクブレーキを止む無く使うのは、停電で回生ブレーキが使えない時だけと思われる。始めは空力ブレーキのみ、(発火を避けるため)速度がある程度下がってから(発煙は覚悟で)ディスクブレーキを使う想定だと思われる。次稿#13A で詳しく述べる。

冒頭の図で「ブレーキ装置を全て使用して急減速」は誇大宣伝であり、内情はこのように危ういのである。JR東海は、この実情を正確に公表すべきである。

B)の案内輪については、唐突にこの記述が表れ、その理由など全く書かれていない。他には一切言及さえない。何かマズイことがあるから、伏せている、隠しているのではないか。

高速タッチダウン時には、ホイールベースの外側で車体を支持する設計欠陥のために、台車に大きなピッチングが発生しやすい。そうすると案内車輪が脱線の手助けをしてしまう。筆者が指摘するこの脱線リスクを、JR東海も2009年時点には認識していたのだと思われる。

案内輪についても、JR東海は実情を正確に公表すべきである。


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