安倍政権は日本が今までに経験したことのないダーティな政権である。そのやり口は「反誠実・冷血」とでも言うべきか。
○戦争法案強行採決の議事録捏造
参議院の特別委員会での強行採決はNHKで生中継され、採決が不存在であることの映像証拠が残った。実際、議事録暫定版では「……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能」と記されていた。しかるに10月11日に公開された最終版では、(“午後四時三十六分”以降に)692文字、40行分が付け加わり、「いずれも可決すべきものと決定した」と捏造している。
画像は強行採決時の「人間かまくら」で、全員面割れしている。佐藤正久議員(自民)以外の与党19名は、本来、委員会室に入ることも許されていない。史上最悪の強行採決と言われる所以である。
○臨時国会開会要求を無視
第53条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
10月21日、野党は上記憲法53条に基づいて臨時国会の開会を要求するも、安倍政権はガン無視。首相自身が「国民の皆様に丁寧な説明を続けたい」と語った戦争法、内閣改造、TPP大筋合意、辺野古埋め立て、パリのテロ事件と緊迫するシリア情勢など、重大問題が目白押しなのに、いずれも話題にされること自体が不都合なのか、逃げの一手。
皮肉なことに、自民党の憲法改憲草案でたった一つだけ評価できるのが第53条であり、「要求があった日から二十日以内に臨時国会が召集されなければならない」と明確に期日を定めている。
そう言えば戦争法案が通ったことになって以降、「中国脅威論」をほとんど聞かなくなった。何と分かり易い世論操作だったことか。戦争法の初適用は南スーダンでの駆けつけ警護と言われている。実は南スーダンには中国が石油利権で深入りしており、国連PKOも(その利権を守るために)中国軍が主体である。つまり戦争法は南スーダンで中国のお手伝いをするために初適用されるのであり、「中国脅威論」がいかに詭弁であったかが分かる。
○拉致被害者をさんざん利用しながら放置、解決の意思なしか
2002年の「日朝平壌宣言」調印は拙速であった。拉致被害者に関する第3項は、あたかも過去の済んだことのように記述され、金正日の「5人生存、8人死亡、1人該当なし」という説明をそのまま認めてしまった。この説明を拉致被害者家族も一般国民も受け容れられず、北朝鮮への反感が高まると、国交正常化を目指していた政府は一転して北朝鮮敵視政策に陥る。
この場当たり的な政策転換により、拉致問題の真の解決は極めて困難になり、国益(特に安全保障上の)を損なうだけとなった。安倍氏はこの転換を推進したとウソをついて「のし上がり」、事あるごとに北朝鮮の脅威を煽り、強硬姿勢を示して様々な圧力を掛けるが、何の成果も生んでいない。そもそも彼自身も(一員として)「8人死亡、1人該当なし」をいったん認めてしまったのであり、「全員を帰還させる」と後から言い張っても外交では全く通用しない。
2014年の「ストックホルム合意」により、拉致だけでなく、遺骨収集、残留日本人,日本人配偶者などにつき北朝鮮側調査が行われたようであるが、安倍政権は報告の受け取りを拒否している。拉致問題の回答が期待に反するためだったとの点で、左右メディアの観測記事は一致している。
それにしても他の人道問題(遺骨収集、残留日本人,日本人配偶者など)の調査報告をなぜ受け取らないのか? それらに期待している関係者は、拉致被害者家族よりもずっと多いはずである。なぜ日朝関係を少しでも前に進めようとしないのか?
「全員帰還」という無理なハードルを設定したばかりに引っ込みが付かず、支持率が下がりかねない報告を受け取るよりも、現状維持のまま放置する方を選んでいると思われる。多数の関係者の心情を顧みず、冷血にも支持率だけを気にしている。「拉致を解決する意思がないのは日本当局だ」との北朝鮮側主張を全く否定できない。
○後藤健二さんを見殺し、むしろ死に追い込んだ
冷血さが際立つのは、ISISの人質となった後藤健二さんを見殺しにした事件である。安倍政権は後藤さんを救出する気は全くなく、殺されようとどうなろうと、メディアを操作して利用する腹づもりであったと思われる。
外務省は後藤さんの拘束を2014年11月1日の時点ですでに掴んでいた。そもそも彼のシリア入りは御用大手メディア(NHK)の依頼取材だったので、第一報は御用メディアからだったとされる。外務省は情報収集や身代金交渉にしっかり関与していたが、あの大義名分のない衆議院選挙の告示(12月2日)を機に箝口令を出して、動きを止めたという。選挙の邪魔だから事件そのものを隠蔽しようとしたのだ。
翌年1月17日、安倍首相はカイロで中東政策を演説し、ISISに関してはこう述べる:
イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。
これはどう見ても、人質を取られた状況で発する言葉ではない。ISISに対して明確な敵意を示すということは、「後藤さんを殺すなら殺してみろ」と言うのと等しい。外務省はこの演説はもちろんのこと、中東訪問自体も止めさせようとしたが、安倍首相は進言を聞かなかったという。
安倍の本音はこうではなかったのか:「殺されれば、面倒な事態はとにかく終わる。世論でISISへの反感が高まるだろうから、戦争法案成立や自衛隊の対テロ戦派遣に向けて有利な材料になる」と。 冷血極まりなし。
○中国で日本人スパイ拘束、また見殺しか
現在進行中の「冷血」は中国で拘束されている「日本人スパイ」への対応である。当初の2人からどんどん増えて、現在は数十人とまで報道されている。彼らは公安調査庁の依頼で個別に派遣され、スパイと呼ぶにはお粗末なレベルの民間人であるという点で、多くの報道は一致している。菅官房長官が「我が国はそうしたことは、絶対にしていない・・・」ときっぱり否定すればするほど、報道の真実みはさらに増す。
拘束された多くの人は、非合法というより「管理区域に許可なく入り、撮影した」程度のことをしたと思われるが、中国政府の意向次第では無期懲役、死刑もあり得る。安倍政権はどうするのか? 知らぬ存ぜぬで通すのか?
○731部隊の被害者関係者のビザ却下
11月27-29日開催の「戦争法の廃止を求め 侵略と植民地支配の歴史を直視し アジアに平和をつくる集い」に参加予定であった中国人12人のビザが今年は発給されなかった。12人は731部隊の被害者協会代表の弁護士、裁判官、検察官など。毎年開催されているが、ビザ却下は初めての事態だという。
731部隊(実態は武田製薬満州支部)の所業は旧日本軍の戦争犯罪の中で最も解明が遅れているものである。まずソ連が凄惨極まる人体実験の研究結果の存在に気付いたのに対し、部隊長・石井四郎中将は成果を米軍に引き渡す取引をして戦犯訴追を免れている。つまり米国も隠蔽に加わっている訳だ。
なぜ安倍政権はあからさまで子供じみた妨害をするのか? 考えられるのは、南京事件が世界記憶遺産に今年登録されてしまったので、次の候補である731部隊の登録をなりふり構わず阻止しようとしているのだろう。慰安婦問題の決着を急いだのも、記憶遺産登録を防ぐために違いない。
3000人とも言われる731部隊所属員は、公職追放などを受けることもなく、戦後は厚生省、大学病院、製薬会社などで職を得ている。薬害エイズ事件のミドリ十字、化血研は所属員が興した会社である。
731部隊の悪行は森村誠一(著)「悪魔の飽食」に詳しく記述されているが、この著作へのネガティブキャンペーンは凄まじいものであった。わずかな瑕疵を徹底的について、作品全体の信憑性を落とそうとした。それだけ731部隊の生き残りが多く、実態が暴かれると困る人が多いということではないか。
2016-01-12 冒頭行追加