1.超電導リニア技術の長所と短所のまとめ
a)長所は一つしかない。高速時(>150km/h)には、10cmほど浮上し(軌道中央に戻す)案内力も強いので、地震に強いとされる。これ以外は短所ばかりである。
地震に強いと謂えども、軌道自体が歪めばダメである。約25m区間(〜車両の長さ)で4cmも歪めば(静的/動的)、台車の固定金属輪と側壁が接触する。8cmも歪めば、超電導磁石も接触し、車体も側壁も大きな損傷を受ける。先頭車は側壁を擦っているのに、後続車は変わらぬ勢いで突っ込んでくる。どれほど悲惨な事故になり得るか、容易に想像できる。
b)低速時(<150km/h)には、浮上力も案内力も弱いので、台車の下側に4つ、左右に2つずつのゴムタイヤが、油圧機構でせり出して位置を保つ。タイヤのパンクや油漏れなど、運行や安全に直接影響する故障要因が格段に多くなる。
低速時(特に停車時)は、地震の揺れで車体は側壁にぶつかる。小さいゴムタイヤで支えきれず、台車の油圧機構が壊れるか、(駆動コイルが入っている)側壁が壊れるか、超電導磁石が衝撃でクエンチしたりすると、もはやまともに動かせない。車庫に戻すだけで、大仕事になるだろう。
c)最大の問題は、超強磁場が剥き出しなことだ。乗客が絶対に近づけないようにせねばならない。乗降はまるで航空機の搭乗口のように、磁気シールドされた蛇腹の通路が延びて、車体にくっついてから初めてドアが開く。1両に1つしか乗降口はなく、時間が掛かる。出発間際に飛び乗るようなことはできない。16両の搭乗口全てに、係員が張り付いて乗降を確認するのであろうか?
車体全体は磁気シールドされるが、超電導磁石のある台車付近に座席は配置できない。1両あたり68席と定員は少なく、座席の前後方向ピッチは88cmで、N700系の104cmよりずっと狭い。
磁気干渉を避けるため、上下線の車両中心間の距離も大きい。トンネルや高架などほとんどの軌道上で5.8m離れている(新幹線は4.3m)。列車の幅自体は、新幹線 3.36mに対して、リニアは 2.90mと狭いのにである。トンネルは大きく(微気圧波対策でもある)、高架橋も幅広い。建設費が高くなるはずである。
品川駅の横幅も、新幹線駅より1.45倍も広い。広くなった分は、乗客を近づけないためのデッド・スペースに食われている。
車庫に入っても超伝導状態は保たれたままである。いたずらに「消磁」「励磁」するのは、手間と時間とエネルギーの無駄にしかならない。しかし励磁のままでは、作業員が台車に近づけない。整備士が直に見て触る、いわゆる点検整備は2ヶ月に1回しかやらないとの、とんでもない手抜き想定になっている。これでは信頼性を確保できない。
もし軌道上に鉄などの磁性金属があれば、風圧で巻き上げて、超電導磁石に吸着する。巨大な鉄くず回収機のようなものである。ボルト1本でも運行を止めざるを得なくなる可能性があり、鉄棒1本でも大事故になり得る。釘をばらまくとかの意図的な妨害を、完全に防ぐのは難しい。
より防ぎ易くするため、また防音のために、トンネル部以外もカバー(屋根)で覆って、実質的に全線をトンネル化する方向にある。そうすると火災が発生したとき、停車すべき場所がなくなるというジレンマ。
d)そもそも超電導磁石を、激しい振動や大きな温度変化に晒すのは、クエンチを誘発するようなもので、正気とは思えない。クエンチしても安全に止まれるとJR東海は主張するが、技術資料はほとんど公開されていない。過酷事故の落とし穴がいろいろあるように私には思える。
希少資源となったHeをどう確保するのだろうか? Heを使わずに済む高温超電導体は、耐クエンチ性能が劣るのではないかと察する。
e)超電導磁石の部分は車体から出っ張っている(約12cm)。車体側面の凸凹が軌道の中を高速で通過すれば、ものすごい乱流が起こる。高速で騒音・振動がひどいのは、この形ゆえと思われる。
f)通常のモーターの回転子/固定子間隔(〜1mm)に比べれば、超電導磁石と地上コイルの間隔は 10cm以上である。磁束は漏れ漏れ、つまり効率が低い。消費電力が大きい要因でもある。
【結論】超強磁場が剥き出しという技術選択は、筋が悪すぎる。間違っているとはっきり言うべき。
2.リニア中央新幹線の事業/社会面の得失まとめ
a)500km/hで、品川ー名古屋間 286kmを 40分でつなぐ。唯一最大のウリである。しかし地下深い駅ホームへの昇降や、飛行機のような搭乗口方式のため、かなり余計な時間がかかるだろう。
JR東海は「山手線や、京浜急行の品川駅と20分以内で乗り換えできるようにする」と説明している。従って、地上から地上への所要時間は、40+30分ぐらい掛かるのではないか。火災防止のため、荷物検査が導入されれば、さらに掛かるかも知れない(f項 参照)。
b)リニア中央新幹線は輸送量が少ない。最大でも新幹線の 59%に留まる。一両あたりの定員が少ない(超強磁場から乗客を離すため)うえに、駆動方式の制約で最大 10本/時(片道)が限界である。
c)JR東海の元々の計画でも、開業により利益は 4000 => 1000億円前後に下がる見込みであった。高い建設費の減価償却と高い維持費のためである。しかしコロナ禍により、この見込みは大きく狂う。
従来の需要は、ビジネス用途が7割近い。現在、企業は出張を大幅に減らし、オンライン会議などを活用している。経費削減、毎日でも気軽に開催、必要な社員は全て参加可能など、多くのメリットを実感しているはずだ。コロナ禍が終わっても、観光需要は戻るだろうが、ビジネス需要は決して元には戻らない。
ビジネス需要が 2/3になると楽観的に仮定しても、運賃収入は 3000億円/年も減り、JR東海は慢性赤字企業となり倒壊してしまう。建設費は当初見込みより増え、開業は何年も遅れるので、事態はさらに悪くしかならない。
d)リニア中央新幹線はかなり不快な乗り物になると予想される。ほぼ全線が真っ暗なトンネル、高速では乱気流が発生し絶え間ない騒音と揺れ、そして大きな気圧変動がある。
いわゆる耳ツン問題だが、本運転では遥かに深刻になる。甲府盆地から南アルプストンネル最高点まで 32kmほど、500km/hなら4分足らずの距離だが、高度差は約 940m、気圧差は 0.125気圧にもなる。これは上昇する航空機内の気圧変動より「2.5倍も速い」。それに加えて、トンネル出入りの度、すれ違う度に、瞬間的な気圧変動が起こる。
解決はとても難しい。航空機のように与圧を与えて、ほぼ1気圧一定に保つのが望ましいが、車体構造の全面見直しになるし、製造コストも格段に高くなるだろう。
トイレが設置されないのではないかとの憶測がある。設置されても、揺れのために走行中は使用が難しいのではないか。
e)リニア中央新幹線は沿線に環境被害を振りまく。特に大井川の水枯れ問題は深刻で、取り返しのつかない破壊になる。実験線でも8ヵ所で水枯れが起こっている。川筋の下にトンネルを掘ると、よほど幸運でない限り、水枯れは必ず起こると想定すべきだ。
都会では大深度地下にトンネルを掘るが、地上に影響はないとの前提は大ウソだったし、シールド工法もかなりいい加減にやっていることが、外環道トンネル工事で露見した。
トンネル出口周辺では微気圧波、いわゆるドーン音が問題になる。実験線では、住民からの苦情を受けてか、高架部分もどんどん防音フードで覆われており、実質的に全線がトンネルになりそうだ。
防音フードをすると、巨大な土管が出来上がり、日陰被害はより悪くなる。
ところで、トンネル内のすれ違いで最大の気圧波が発生する。トンネル内面で最大 +0.15、-0.19気圧になると、シミュレーションした論文がある。リニアのトンネル内では、(バラスト石がないため)気圧波は減衰せずに遠方に伝わる。
特に、地下の通過駅となる橋本駅はどうなるのか? 待合室の乗客を、気密性のある仕切りで、気圧急変動から守らなければいけない。しかし仕切りやガラスが、+0.15、-0.19気圧の急変動に耐えるのか? 地下通過駅はそもそも無理なのではないか? 全列車停止するしかないのではないか?
さらには品川、名古屋ではどうなのか? 駅の近くでは速度を落としてすれ違うとか、情けないことになるのではないか? この件に触れた資料は全く見つからない。
f)もし火災事故が起きると、地獄の大惨事は必至ではないかと思われる。火災発生したら、そのまま走り続けて、「明かり部」(上方が開いている場所)に停めることになっている。しかし全線がトンネル同然では、停める場所がない!
否応なくトンネル内に停めたとする。煙から避難せねばならない。長大トンネルは換気してあるはずなので、風上に逃げればよい。しかし発火場所より風下の車両の乗客は、どちらに逃げればよいのか?
避難開始前に、乗客(の持ってる磁性体)が吸着されないように、超電導磁石をクエンチしなければいけない。クエンチすると、液体Heや液体窒素が激しく沸騰する。沸騰してもまだとても低温なので、空中の湿気を凝固させて「濃い霧が発生する」。煙以前に、この霧で視界が悪くなる。換気で霧が晴れるまで待たなければいけない。
中央制御室から、どこまで把握できるのか? カメラの死角は見えない。乗務員(3名いるはず)には台車回りの異常はなかなか分からないだろう。だれがどう状況を把握して、停止や避難の判断をするのか、どう乗客に指示して誘導するのか、といった緊急対応シナリオは全く見たことがない。
おそらく、だれ一人、何も真剣に考えていないのではないか。「火災事故は絶対に起こりません!」と言い張るだけなのではないか。我々はそういう例を何度も見てきた。
乗客による意図的な放火は絶対に防ぐ必要がある。飛行機のように荷物検査が必須ではないか。土管のコンコルドなのだから。
【結論】赤字は確実、深刻な環境破壊、安全に重大懸念。大きすぎるマイナスばかり。危険すぎる。
そもそも超電導磁石を列車に応用しようというアイデアが良くなかった、筋が良くない発想だったと思います。その点を重点に説明されていて参考になりました。なお、細かいことですが、まとめは「#7」ではないでしょうか。
かなり極端な話になりますがアポロ計画は1961年に始まり1969年に月に人類を送り込む事に成功しました
それ以前の宇宙計画を含めても20年はかかっていません
リニア新幹線は1962年に研究が開始され未だに開業の目処がたっていません
山梨実験線でさえ建設開始から全線での試験走行までに約20年かかっています
リニアで東京から名古屋、大阪まで行くことは月に行くことよりも難しいということになります(笑)
鉄道同士で比較しますと
戦前に弾丸列車計画というのが1939年に始まり戦争で中止になりました
その後継といえる東海道·山陽新幹線が完成したのは1975年
両方合わせて36年です
何故、こんなに年月費やしても開業できないのかといえばこのサイトで言われているようにスジの悪い技術を採用したからだと思います
公共交通機関なのだから簡単で確実な技術でやるのがスジだと思います