FCVの見えない未来(2)エネ研の論文紹介

Fig1
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日本エネルギー経済研究所は、元は経産省資源エネルギー庁所管のエネルギー業界のシンクタンクで、どちらかと言えば水素を推進する側の立場である。2010年の論文(pdf)はたいへん興味深く、特にそのサマリー(pdf)は情報を圧縮して一般人にも分かり易く、代表的な数字【注1】を端的に提示しているので大いに参考になる。

水素は様々なやり方で製造(分離)できるが、そのコストは輸送・充填も含めて、1kg=1000円前後と見積もられている(図1)。左端の例は天然ガスを高温で蒸し焼きする「メタン水蒸気改質法」で、最も代表的な水素製造法である。ここでオンサイト型とは水素ステーションで水素を製造し、オフサイト型とは工場で水素を作り輸送してくるものを指す。一般にオンサイトの装置は小型なので製造コストは高いが、輸送の費用は掛からない。トータルとしてはあまり変わらない数字になっている。

回収とは、水素製造が目的でなくとも大量の水素が発生する生産工程があり、そこから水素を取り出すことをいう。例えば、製鉄所で石炭を蒸し焼きしてコークスを作るとき多量の水素を含んだガスが出るので、ほぼ分離・精製のコストだけで安く取り出せる。しかし水素は副次的に発生するものだし、製鉄所内で有効利用されているので、取り出せる量には限りがある。

水素はさらに様々な電力で水を電気分解して作れるが、コストは高めである。いずれの場合でも、コストのかなりの部分が輸送や充填であることに注目して頂きたい。水素が気体で嵩張り・漏れやすく・金属腐食性が高く・引火性が高いためであり、高圧で充填するのでさらにコストが嵩む(論文では 350気圧充填を想定しており、700気圧ならさらにもう少し高くなる)。

Fig2
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様々な製造法でのCO2排出量も示してある(図2)。再生可能エネルギー(または原子力)電力で電気分解をオフサイトで行うのが断然低い。このケースは次回に論じる。
コークス炉ガスからの水素回収は、CO2排出が少なそうに見える。しかしコークス炉ガスは燃料などとして有効利用されているので、もし水素を取り出すならば、何か代わりの燃料が必要なはずである。その分で新たにCO2排出も、コストも増える。例えば、天然ガスを代わりに燃やすならば(CO2発生最小)、水素 1kgの燃焼熱を埋め合わせるには約 3m^3の天然ガスを燃やさねばならず、約6kgのCO2が発生する。これを考慮すれば、コークス炉からの水素回収が格別にCO2発生が少ないとは言えない。

このサマリーでもっとも注目されるのは「まとめと今後の課題」である:

  • 水素のコストは高いままに留まる
  • CO2排出量の低減は見込めない(化石燃料を改質する限り)
  • EVの方が先行して導入されるだろう
  • EVの航続距離の制約から、FCVが重要になる可能性あり
  • 政府や地方自治体が明確なビジョンと強力なリーダーシップのもとに計画を進めることが不可欠である(補助金頼み)

初めて読んだとき、業界シンクタンクがこのように「率直で、醒めた、ほとんど敗北宣言」とも受け取れる認識を示していたことに驚いたものである。2010年はFCVにとってそういう年だったらしい。

日本では、2002年から水素・燃料電池実証プロジェクトが始まり、実証設備として 14カ所に水素ステーションを設置し、実験車両数十台を走行させては、燃費、燃料電池の信頼性、水素ステーションの運営実験などを行ってきた。このプロジェクトは2010年で終了となり、その後は水素供給・利用技術研究組合が引き継いでいる。

米国でもほぼ同時期に大規模な FCV実証走行試験が行われたが、米国エネルギー省(DOE)の予算推移(pdf)を見ると 2010年で終わったようである。恐らくは日米が協力して FCV開発に注力したものの、期待した成果・技術レベルには達しなかったのか、それともこれ以後は各社独自にやっているのか。

米国では 1996年にGMが電気自動車 EV1をカリフォルニア州でリース販売を始め、いわば EV時代の幕が一旦は開いた。しかしなんと自動車業界や石油会社は、カリフォルニア州の EV優遇規制に訴訟で対抗した。石油業界は消費者団体を動かして、税金で充電設備を作ることに反対させたりした。さらに石油利権を代表するブッシュ政権が 2000年末に誕生し、米国政府は EVから FCVへ大きく傾いていく。最後には、GMが EV1を利用者から強制的に回収してスクラップにしてしまった。この経緯は映画「誰が電気自動車を殺したか?」に描かれている。

時はまた巡り、2008年末からオバマ政権になり、経済的合理性から EVを支持している。FCV開発の中心であったGMが破綻したこともあり、米国は FCVから EVにまた戻ってきた。そして今は・・・続きは次々回に。

日本では1年前、Miraiの発表に合わせて「水素社会」のキャンペーンを張り、アベノミクスの成長戦略の一つとして大々的に打ち出し、多額の補助金を投入している。しかし内容を知れば知るほど、「水素社会」はエネルギーを無駄使いするだけで、全くエコではないことが分かってくる。

このように EV、FCV開発は、純粋に環境性能の追求というよりも、石油業界の利権とか政治的な目論見でひどく歪められている。問題は、消費者の長期的な負担をきっちり議論していないことである。当初は補助金で負担を軽く見せかけて誤魔化すことはできても、それを永遠に続けることはできない。高いコストは結局誰かが負担せねばならないのだから。


【注1】数字は 2010年当時のベスト推定で、水素の化学反応や物理的性質で決まる要因が多いので、5年後の現在でもあまり変わっていないと思われる。むしろ、350 → 700気圧化で微妙に増えている。


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