グラフは、JR東海が公表した工事費の計画額と実績額である。実績額は 2024年3月期決算説明会資料のP. 19にまとめてあるし、計画額は各年度の「重点施策と関連設備投資について」に記載されている。
計画額をそのまま累計したもの(青)に実際上の意味はないが、JR東海が本来望んでいた水準という意味では重要であり、比較の基準となる。
計画上のペースだったとしても(青点線、2018年以降で直線外挿)、名古屋までの総工事費 7兆円(2021年に見直し)を超えるのは、やっと2035年である。2027年開業というのは、端から大ウソ、全くのデタラメであった。
実績額の累計(赤)はかなり下回っている。実績ペースで外挿すると(赤点線)、2043年の後半にならないと7兆円を超えない。笑止。JR東海は「2027年開業したいけど、静岡が〜」と言い続けてきたのに、実態はこの有様である。工事ペースはとんでもなく遅いのである。
では、今年度から、計画ペースの工事費3700億円/年を投入し続けると仮定しよう(紫破線)。この額は、JR東海が捻出可能な最大の工事費と思われる。それでも、7兆円超えは2037年になる。これは工事の完了であり、さらに2年間の試運転を経て開業できる。従って、考え得る最速のケースでも、開業は2039年になる。
工事がさらに遅れそうな理由は、多数ある。工事費の総額が7兆円で済むとは、だれも思っていない。2021年の見直し後に、現在の円安インフレとなった。現時点で見積もりし直すと、8兆円を超えるのは確実だろう。
8兆円とすれば、完工はさらに3年遅れて、開業は2042年となる。実績通りの2600億円/年ペースに留まれば、開業は2050年以降になる。
現実の工事は、技術的なトラブルが多発しており、ほぼすべての現場で大幅に遅れている。計画額をこなせず、2600億円/年のペースに留まっているのは、そのせいかも知れない。遅れれば遅れるほど、インフレで総工事費は膨らむ。
最近の大型土木工事は、工期が大幅に伸び、総工事費が当初見込みの2倍以上となるのが常態化している。杜撰な計画のまま、地質調査もろくろくやらずに突っ走るのが原因である。
JR東海はまさにその轍を踏んでいる。ルート選定、工事計画/手順などがいい加減なのである。そもそも、JR東海は新路線を建設した経験はゼロ、全くない。地権者や自治体との交渉も難航続きで、残土処理地も見つからず、工事になかなか着手できない。工事費は最終的に10兆円を超えるだろう。
これがリニア工事の実態である。JR東海が2027年開業断念と表明したのは、やっと3月末だった。それ以前は、メディアも実態をほとんど報道していない。実は、公表されている投資額で丸分かりだったのにも拘わらず。2027年開業は、ウソで固められた虚像であった。
繰り返すと、名古屋までの開業は、最速でも2040年以降、現状のペースでは2050年以降になる。名古屋までなら、新たな需要は生み出せないので(基本的に、リニアと新幹線で客を取り合うだけ)、収益は伸びず、赤字は解消できない。大阪まで延伸する資金も体力も、JR東海には残ってないどころか、倒産する可能性さえある。
もはや意味がないのは、だれの目にも明らかである。できるだけ早く中止することだ。費やした工事費は2兆円ほどで、傷はまだ浅い。