世界的に終焉が見えてきた原子力発電

2011/3/11からほぼ6年になろうとする昨今、世界的に原子力発電の終焉がはっきりと見えてきた。事業として成り立たたず、関連企業は大赤字で、世界各国で建設計画が中止となり、一方で代替となる再生可能エネルギーがどんどん普及してきただけでなく、石炭火力よりも低コストとなってきた。もはや原発を使う理由は皆無である。安くなく、10万年もの放射性廃棄物管理が必要で、もし事故が起これば天文学的費用が発生する原発は、出来るだけ早く終わらせることだ。

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日刊ゲンダイ 1/24、クリックして拡大

東芝が6800億円もの巨額損失を、原発事業で計上するという。東芝は昨年も、原発事業の子会社・米ウエスチングハウス社(WH)の資産価値を2600億円も減損する処理を行ったばかりである。今回は、そのWH社がただ同然で買収した原発建設会社「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター」が、受注している原発の建設コスト上昇のため、実は巨額の含み損を抱えているというのだ。詐欺とも思える買収取引だが、原発事業はもはや「ババ抜きゲーム」の様相を呈しており、間抜けな東芝の経営者がまたもやババを掴まされたのだ。東芝は解体必至である。

世界最大の原子力産業複合企業・仏アレバ社も、巨額の赤字を計上している。2011~2015年の累計赤字は98億ユーロ(約1兆2000億円)である。新型原子炉EPRの建設難航が主因とされる。2016年もアレバ社の赤字が膨らむのは確実である。蒸気発生器や圧力容器に使われている日本製鋼材の強度不足が発覚し、緊急点検で20基もの原発が停止しているためである。この日本製鋼材は、日本の多くの原発にも使われているのに、原子力規制委員会は実物を検査することもなく、形式上の書類審査だけで問題なしとしている。ここにも日本の原発が安全でない証左がある。

2011/3/11以降、原発の受注は減り、安全対策のために建設コストは倍以上に跳ね上がり、もはやコストの高い発電方法となり、経済的に成り立たなくなっている。そのため世界各国で脱原発が進んでいる:

  • ベトナムは原発建設計画を白紙撤回した。福一事故を受けて、安全性を見直した結果、建設費用が膨大になり、経済的に見合わないとの判断である。
  • リトアニアでは反原発を掲げる会派が第一党になり、日立が受注していた原発計画は破棄されるだろう。2012年に行われた国民投票では、原発反対が6割であったという。
  • マレーシアでは原発建設計画を2030年以降に延期した。自然災害リスクに対する懸念で、反対運動が拡がっているためである。
  • トルコのシノップ原発建設計画には、三菱重工などが出資しているが、建設費は高騰するのに電力料金は安いため、事業として成り立たない見込みとなり、撤退を検討している。
  • 台湾では「脱原発法」が成立し、2025年までに全ての原発を停止することを決定した。

高くなった原発コストには、廃炉のコストはたぶん含まれていないし、10万年間にも亘る放射性廃棄物の管理費用は含まれていない。ましてや万一の事故の際の賠償金は全く含まれていない。福一事故の処理費用はすでに21.5兆円と言われ、一体いくらにまで膨らむのか予想も付かない。福一の 1、2、3号機は、いずれも核燃料が格納容器の底を突き破ってメルトスルーしており、鉄やコンクリートと混ざり、強烈な放射能の計880トンもの塊となっている(下表)。これを一体どうやって取り出すのか、見通しは全く立っていない。この廃炉処理だけで、100年間、57兆円(5千億ドル)との見積もりさえある。今後数百年に亘って、日本経済の重荷であり続けることだろう。

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川内原発

原発再稼働するには、少なくとも20兆円以上の賠償積立金、10万年分の放射性廃棄物保管費用の引当金を用意するのが、企業の社会的責務として至極当然である。もちろん、そのような巨額の保険の引き受け手は存在しない。電力会社が自ら積み立てるのも不可能であろう。原発というのは、事故リスクや将来コストを無視し、もし何かが起こったら国民(税金)に負担させることで初めて成り立っているのだ。金だけならまだしも、事故の際の住民避難計画さえまともに立案されておらず、命さえ保証されない。それが再稼働している川内、伊方原発の実態である。

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーが、原発に代わるべき、CO2を排出しない発電である。その普及とコスト低下が世界的にどんどん進んでいる。デンマークでは、風力発電で総電力需要の80%以上(日平均)をまかなった日があり、最大の風力発電比率は111%であった。

ドイツでは、2015年を通して、再生可能エネルギーの寄与が総電力需要の32.7%であった。2011年に多数の原発を止めて以降、原発より再エネ発電のほうが多くなっている。2022年には全ての原発が停止する計画となっている。2003年からドイツは電力の純輸出国であるが、再エネの拡大により近年は輸出量がどんどん増えて、2015年は差し引き約50TWhも輸出している(ドイツ全体の電力需要は年間約600TWh)。

日本は火力から再エネへの切り替えは遅れているものの、状況はさほど悲観的でもない。再エネの電力供給量は着実に増えており、昨年夏に発生した最大需要日の供給力を合計すると、水力・地熱・太陽光・風力で17%を占めている。特に地熱・太陽光・風力は、政府見通しより、2倍以上に増えている。現時点、原発にはほとんど依存していないので、原発が全停止しても何も問題はない。

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再エネの発電コスト低下も著しく、全世界平均の太陽光発電のコストは、石炭火力と原子力(ただし事故リスクや将来コストを含まず)を追い越して、陸上型風力発電に次いで安価なエネルギー源となっている(右図)。特に太陽光発電のコスト低下ペースは目覚ましく、低緯度の条件の良い地域のみならず、2025年には米国でも天然ガス火力発電を下回ると予想されている。

今後は、開発途上国などでも、エネルギー政策は太陽光発電などの再生可能エネルギーが中心になると予想される。中国では風力発電が急速に伸びており、インドは太陽光発電に力を入れている。ゆえに原発輸出を国策とするなど愚の骨頂である。需要はなく儲からず、万一事故が起きたら、巨額の賠償責任を課されるだけである。

以上の状況から、もはや原発は世界的に終わった技術であり、終息に向かうのみである。チェルノブイリ事故が遠因で、ソ連は崩壊したと言われる。もしまた原発事故が日本で起これば、日本は崩壊する。原発再稼働したいなら、そのようなリスクに対して十分な備えをしたうえで、責任を100%負わねばならない。負えないならば(負えるはずがない)、原発を止めるしかない。

 


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