踏み間違い事故はなぜ起こる?(FAIL CATASTROPHIC)

出典不明

AT車でブレーキとアクセルを踏み間違える事故が後を絶たない。写真は典型的なコンビニでの踏み間違い事故で、「ダイナミック入店」や「コンビニ特攻」とかの茶化した言い方が定着している。

ブレーキを踏むべき状況で、実際にはアクセルを踏んでしまい、停止すべきところを加速・暴走してしまう事故である。物損事故で済めばよいが、車と壁の間に人を挟むとか、数百mも暴走し死者を出してしまったら悲惨なこと極まりない。

右足A/B踏み替えは「FAIL CATASTROPHIC」

アクセルとブレーキを踏み間違えるという、基本操作ミスがなぜ起きやすいのか?
それは、右足でアクセルとブレーキを踏み替える操作そのものが、人間工学的に間違っており、危険だからである。教習所で誰もが習い、世界中で共通の操作方法なのだが、間違ったものは間違っていると言うしかない。間違った危険な操作方法が、これほど広く世界中で使われ、今さら変えようがないのは、他に例を見ない。

踏み間違い事故の報道や解説は非常に多いが、右足A/B踏み替え操作そのものの危険性に触れたものは非常に少ない。この研究発表資料は、操作法の問題を正面から取り上げた、数少ないものの一つだ。

本稿は世界共通の操作方法の危険性と、その対処を論じるのが目的である。教習所で教えられた操作法が、実は危険だという認識を持つことが、事故を防ぐ第一歩と考える。

アクセル(A)とブレーキ(B)は真逆の作用をする。2ペダルの間隔は数cmほどしかない。それらを右足だけで、目で見ずに踏み替える。そこで、例えば以下のような間違いが起これば暴走となる。

(1) 緊急時に「あっブレーキ!」と慌てて踏んだら、アクセルだった・・・
(人体の特性として、足を突っ張り踏む動作は速く反射的だが、足をいったん手前に引いて踏み替える動作は意識的であり、訓練の成果。予期しない緊急事態に驚いてしまうと、右足の移動が上手くいかず、アクセルを再度踏んでしまう可能性がある。運転席設計の基本として、右足でアクセルを踏んだ姿勢が自然になるよう配慮されており、ブレーキよりアクセルの方が圧倒的に踏みやすい)

(2) もし何らかの理由で、足が数cm右にずれたら・・・
(シートにきちんと座っていない、後退時に体を大きくひねって後ろを見る、助手席シート上のものを取ろうと上体を左に傾けるなど)

(3) アクセル上にある右足を、なぜかブレーキ上にあると勘違いし、そのまま踏んだら・・・
(初心者や認知症にありがち。コンビニの登り傾斜の駐車場で、車の速度が自然に落ちるので、『ブレーキに足を掛けている』と錯覚??)

ブレーキを踏んで停まるつもりなのに、実際はアクセルを踏んでおり、車は強く加速し、意図とは全く逆の動きとなり、ドライバーはひどく驚き動揺する。反射的にブレーキ(実はアクセル)をより強く踏み、車はさらに加速する。これが踏み間違い事故が重大になりやすい理由である。

間違いをより悪くする「正帰還」が掛かるのである。右足A/B踏み替え操作法は、Fail Safeの真逆の、「FAIL CATASTROPHIC」とでも言うべきもので、いったん間違うと破滅的な結果になりやすい極めてマズい危険な操作法である。

こんな操作方法が世界標準なのは、歴史的経緯と、ATとMT(手動変速)車が併存するのでやむを得ない面がある。MT車はアクセル/ブレーキ/クラッチ(C)の3ペダルを、左足でC、右足でA/Bを踏み替えるが、これには合理性がある。パワーアシストのない時代は、B、Cはとても重く、足で操作するしかなかった。Aは走行中ずっと操作し続けるために、やはり足で踏む方式に収束した(バイクで長時間走行すると、手でひねってアクセルを操作し続けるのはけっこう疲れる)。

A/B/Cの3ペダル方式は、左足のお陰で、それほどマズくはない操作法である。「Fail Relieved」ぐらいであろうか。停まるときは、ブレーキに加えて、クラッチ操作が伴う。左足がクラッチを踏めば、駆動力は切られる。ブレーキを踏めずに追突したとしても、惰性でぶつかるので、被害は比較的軽くなる。発進ではクラッチをゆっくりつなぐので、暴走はまず起きない。左足も使うので、ドライバーはきちんとシートに座り、右足だけ位置がずれて踏み間違う可能性は小さい。ということで、MT車主流の時代には、踏み間違い事故が社会問題になるほど多くはなかった。

AT車では、左足を遊ばせ、右足だけで操作するように教えられる。左足が果たしてきた「駆動力を切る」歯止めがなくなり、わずか数cmほど足がずれただけで奈落の底に落ちる、極めて危険な操作方法になってしまう。それでも、人間の適応能力は素晴らしいもので、多くの運転者は全く間違えることなく操作している、・・・ただし事故を起こすまでは。

朝日新聞デジタルより

数10年にも亘って優良運転手だった方が、たった一度の踏み間違いで、数人を死なせてしまうのがこの事故の恐ろしいところである。2016年12月、福岡市の原三信病院に突っ込んだタクシー運転手は、「ブレーキを踏んだが、効かなかった」と一貫して主張し裁判になっている。

しかし、車のEDR(Event Data Recorder)にはアクセルを踏み続けていたことが記録されている。車は300m手前から暴走し、86km/hで待合室に突っ込んだという。

運転手はブレーキを踏んでいるつもりなのに、どんどん加速するのが信じられず、さらにブレーキ(実はアクセル)を強く踏んだのである。だから「FAIL CATASTROPHIC」なのだ。

踏み間違いが広く認識されたのは・・・

AT車先進国の米国でももちろん踏み間違い事故は多発する。運転者の認識は「ブレーキを踏んだのに、効かなかった」なので、車の故障/欠陥で暴走したと思いたくなる。例えばこの暴走経験者交流サイトはそのような立場で作られている。

1980年代前半、米国では Audi 5000の暴走が社会問題になった。事故のほとんどは踏み間違いと現在では推定されているが、当時その認識は広まらなかった。Audi車にも非があり、アイドリング制御がまずく、エンジン回転が上がる問題があった。停止時にきちんとブレーキを踏んでいないと動き出す可能性があり、事故を誘発したと推測される。AT車ギアセレクターのシフトロック機構(ブレーキを踏んでいないと、Pから動かせない)は、この問題を機に導入され始めた。

2009~2010年には、トヨタ車の暴走事故が米国のメディアや議会で大々的に取り上げられ、トヨタは700万台以上のリコールを余儀なくされた。NHTSA(米道路交通安全局、National Highway Traffic Safety Administration)の苦情登録サイトに、トヨタ車の暴走苦情が2004年ぐらいから顕著に増えていた背景がある。2009年には、レクサスESのアクセルがフロアマットに引っ掛かかり、踏み込まれたままとになって暴走し、乗っていた一家全員死亡という衝撃的な事故が起こり、一気に追求ムードが高まった。問われたのは:

a) 電子スロットル化した新モデルの導入の度に、暴走苦情が急増したのはなぜか?
b) アクセルがフロアマットに引っ掛かかりやすい設計ではないか?

トヨタは当初から(b)は認めてリコールに応じたが、(a)電子スロットルの欠陥は全否定した。NHTSAの最終報告によれば、電子スロットルの設計/ソフトウェアに特に欠陥は見つからず、(b)の問題以外は、踏み間違い(pedal misapplication)の可能性大としている。

この大騒動の一番の成果は、踏み間違いという事故原因が広く一般に報道され、認識されたことではないだろうか。それ以前もコンビニに突っ込む事故は多かったが、ドライバーはたいてい「車が暴走した」、「ブレーキを踏んだのに止まらなかった」等の言い訳をしていた。しかしトヨタの巨大リコール以降は、多くの当事者が素直に「踏み間違えた」とミスを認めるようになったと思う。

しかしながら、右足A/B踏み替え操作法そのものの問題であることは、まだ十分に認識されていないと思う。運転の下手な初心者やボケ老人が起こす事故であった、オレ様がそんなミスをするはずがないと思うドライバーは依然として多いと思う。病院に突っ込んだタクシー運転手のように。

この操作法は「FAIL CATASTROPHIC」であり、誰でもいつかは悲惨な事故を起こしかねないことを認識すべきである。認識さえしていれば、日々気をつけるだろうし、いざ間違っても想定の範囲内なので、なんとか対処できる(アクセルから足を離し、ブレーキを踏み直す)可能性がでてくると思う。

【注】上記(a)についての私見は、電子スロットルのアクセル応答特性の問題ではないだろうか。アクセルを軽く踏んでもエンジンが吹け上がり、車がスッと発進してパワー感を演出するような設定ならば、買い換え当初は不用意に急発進するかも知れない。ふつうはすぐに慣れるものだが、慣れる前に事故を起こすこともあるだろう。

衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)

ここからは踏み間違い事故の防止を考える。新車を買うのであれば、衝突被害軽減ブレーキを必須機能として選ぶべきだろう。止まった状態から前/後の障害物に、踏み間違いでぶつかるようなことは、確実に防止できるはずだ。保険割引されるほど搭載車の事故は実際に減っているし、購入時の減税も検討されている。

( )付きで自動ブレーキと呼ぶのは、信頼性が100%ではないし、動作条件には様々な限界(速度が高い、障害物が小さい、暗い、雨・・・が厳しい)があるので、頼り切ることは出来ない。

例えば、ノロノロ渋滞での追突(非常に件数が多い)を防ぐには、とても有効だと思う。しかし、停まっている渋滞最後尾にノーブレーキで突っ込む、あるいは踏み間違って加速しながら突っ込むような重大追突事故の場合は、速度が高すぎて自動ブレーキは間に合わないだろう。

朝日新聞デジタルより

2018年2月に起きたレクサスLSの事故は、最新の自動ブレーキ搭載車ゆえに大きな話題になった。加害者の刑事処分が最近ようやく決まり、事故の原因がやっと報道された。

ギアをD位置にしたまま降りかけたとき、誤ってアクセルを左足(!)で踏み込み、300m暴走して100km/h超の速度で、歩行者を巻き込んで民家に激突したという。いわゆる踏み間違いではないが、本質は同じだ。思わぬ暴走に驚き、そのままアクセルを踏み続けたのだから。

CM動画などを見ると自動ブレーキはいかにも有効そうに思わされるが、むしろ批判的に見て、動作条件の制約や防止性能の限界をしっかり把握すべきである。事故を起こしてしまったら、自動ブレーキのせいにはできないのだから。

ナルセペダル

ナルセペダル

右にひねればアクセル、踏めばブレーキ(同時にアクセルは解除)というワンペダル操作法で、右足A/B踏み替えの危険性を正面から解決できるアイデアである。バイクのアクセル/ブレーキ操作に似ている。ブレーキに常時足を構えている訳で、緊急時にも難なく対応できる。

A/Bペダルを取り払って、ナルセペダルに置き換えるのである。重要保安部品であるペダル廻りの改造を国交省が許可するのは、ナルセペダルの有効性を認めているからと言える。

踏み間違い事故を経験した人などからワンペダルは強く支持されているが、しかしあまり普及してはいない。メーカーが新車で採用した例はない。一つのやり方がいったん世界標準になると、たとえ間違っていようと危なかろうと、変えようがなく惰性でそのまま使い続けるしかないという現実がある。メーカーとしては、自動ブレーキを進化させる方向に進むしかないのであろう。

改造してまでナルセペダルにするかと、筆者が問われるならば、ウーンと首をひねってしまう。踏み間違いの解であることは間違いない。しかし、足を「ひねる」操作に人間工学的な懸念(精度と持続性)があるのと、操作に自由度がないと感じる。なぜ足一本だけで操作するのか、という疑問もある。そこで次項へ。

両足操作(左足ブレーキ)

「ペダルは2本、足も2本なのだから、両足を使えばよい」、つまり「AT車のブレーキは左足、アクセルは右足で踏むのがお勧め」と1980〜90年代のたいていの運転指南本に書いてあった。当時は日本でもAT車が主流になりつつあり、自動車評論家らはすでに「踏み間違い」事故を認識しており、それを防止するためにも、操作の自由度の面からも両足操作の優位を説いていた。

2ボタンマウスをほとんどの人は指2本で操作しているはずだが、それを指一本だけでやれと命令されたらどうだろうか? 効率は落ちるし間違いが多くなり、とてもやってられないとだれも従わないだろう。右足だけでA/B踏み替えろというのは、不合理な制約なのである。

MT車での右足の動きを、そのままAT車でも行うのだから、右足A/B踏み替えすべきと一般に主張されているが、それは上に述べたように「FAIL CATASTROPHIC」で危険なのである。MT車では左足でクラッチを切るという安全弁があったのに、AT車ではそれがないのだから。

MT免許持ちなら、AT車の両足操作は実は簡単である。右足は訓練不要。左足はペダルをじわりと離す動作には慣れているので、ブレーキを踏む動作だけ訓練すればよい。始めは(空いた広い駐車場などで)右足を主、左足を従として、両足でブレーキを踏む練習をすれば安全上の問題はない。徐々に左足を主にしていけばよく、筆者の経験では、数日で左足ブレーキは右と同レベルになった。

AT限定免許者は、そもそも左足を運転に使ったことがないので、とっつきにくいだろう。(空いた広い駐車場などで)左足でブレーキを踏んだ状態から緩めて車を動かし、(安全のため)右足で止めるという練習から始めればよい。

実際の運転では左足をどう使うか?

○発進の時は必ず、左足で踏んでいるブレーキを緩めて動き出す
右足はアクセル上にある。何かの間違いがあれば、左足を緩めるのを止めて、ブレーキを踏み直せばよい。間違いとは、例えば、直前を人が横切る、DとRのギア間違い、赤信号無視の車が横から突っ込む・・・など。

○ブレーキを頻繁に使う状況では、左足をずっと構えておく
ノロノロ渋滞、車間距離が小さい速い流れ、駐車場内での切り返し・・・など。

○ブレーキをまされる可能性が少しでもあるときは、左足をブレーキに構える
交差点や横断歩道を通過するとき、狭い住宅街の道、見通しの悪いカーブ、動物が飛び出しそうな夜道、酔っ払いが寝てそうな夜道、・・・など。

これだけで、踏み間違い事故をほぼ確実に防げるし、たいていの出会い頭事故も防げるだろう。構えた左足で早くブレーキをかけられるからだ。

余裕があるときや予期されたブレーキ操作は、どうせアクセルを離すのだから、右足でやれば良い。見通しの良い高速道路などで減速するとか、先の信号が赤とかの場合である。

さて、AT車のブレーキペダルは幅広であり、左足でも踏めるように設計してあると言える。しかし、どちらの足が踏みやすいかとじっくり見れば、ほんの1〜2cmの差なのだが、右足のほうが踏みやすい車もけっこうある。これが、右足A/B踏み替えすべしの最大の論拠になっている。

ブレーキペダルをほんの2〜3cm左に大きくして、左足でもどうぞと推奨すれば、世の中は丸く収まると思うのだが・・・。

車選びは、ペダルなど操作系で

写真は左から順に、1960 Lincoln Continental、1960 Olds Dynamic 88 Convertible、1961 Pontiac Bonneville Convertibleで、このサイトから引用している。

ペダルに注目して頂きたい。アクセルペダルはオルガン型で、ブレーキペダルは幅広く、左足「でも」踏んで下さいと言わんばかりである。クラッチがなくなった分、素直にブレーキペダルを左に広げているように見える。米国でAT車が主流になったこの時期、上級な車はほとんどこのようなペダルレイアウトだったようで、他にも多くの例がある。筆者から見れば、理想的である。

最近の車はこんな簡単なこともやってくれないのが不思議だ。一部のドイツ車は、MT車のクラッチを省略しただけのような感じで、Bペダルが小さく、右に寄っている。さらに好ましくないことに、BペダルがAよりもずいぶん手前にある。わざわざブレーキを踏みにくくしているとしか思えない。(デカい足で)両ペダルを踏んだとしても、ブレーキが確実に効くようにとの配慮だと言う。そんなことはBrake Override機能(ブレーキを踏めば、アクセルを電気的に抑制)で簡単に解決できるのに。

アクセルは、踵を床につけて足首の角度で操作するので、オルガン型が人間工学的に望ましい。長時間ドライブする人には、オルガン型かどうかは重要なポイントである。大型トラックは、見た限り全て、オルガン型である。

画像は住友フォークリフトHPからで、左右どちらの足でも踏める幅広なブレーキペダルによって繊細な操作ができると謳っている。微妙な前進後退で位置合わせするフォークリフトには、両足操作は必須であろう。

最後に、踏み間違いに関連すると思われる、AT車のシフトレバーについてもコメントしたい。

写真はプリウスのもので、レバーが小さくかつ初期位置に戻るので、どのギアに入っているのか分からない。もちろんメーターパネルに表示はあるが、レバーを見ただけでは分からない。

そのために、RとDの間違いを起こし易いのではないか、さらにはBを後退(Back)と混同してReverseと間違うのではないか、との説もある(BはエンジンブレーキのBで、長い下り坂で有用)。日産のEVも似たようなレバーを採用している。ギア間違いは、踏み間違いを誘発する可能性がある。

前向き駐車したコンビニから後退で出るとき、DかBかに間違えていたとすれば、車止めに当たって動かない。そこで強めにアクセルを踏むと、どっと前に飛び出す、という事故も起こりうる。モータの低速トルクが大きいことも要因になる。

斯くして、運転席に座ってペダルやシフトレバーを触るだけで、筆者の車選びはほとんど終わってしまうのだ。


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