FCVの見えない未来(3)水素は出来の悪い電池

化石燃料からでなく、風力や太陽光など再生可能エネルギーのCO2フリー電力から電気分解で水素を作れば、水素もCO2フリーになるはずである。度々引用するエネ研の論文(pdf)によると、風力から作れば、オフサイト型で水素 1kgあたりの CO2排出量は 2.8kg-CO2/kgと少なく、FCVの CO2排出量もここまで低くなる:
2.8/91= 31g-CO2/km => ガソリン車に換算すると 75km/L相当

これはハイブリッド車では到底実現できない低い値であり、FCVの存在意義がやっと出てくる。しかしEVと比べるとこの値も霞む。EVもCO2フリー電力を使うならば、CO2排出量は基本的にはゼロであり、小さな付随的要因を寄せ集めてもこの1/10以下で済む。さらにエネルギーの利用効率、つまり電力消費量(=コスト)が以下に示すように大きく違う。エネ研の別の寄稿(pdf)から引用すると:
水を電気分解して水素を作る場合、現在の電解効率は約60~70%で、得られた水素を燃料とする燃料電池の発電効率はPEFC(固体高分子型)で約40%・・・

言い直すと、「投入電気エネルギーの60~70%が水素エネルギーに変換され、その水素を燃料電池で反応させると40%分の電気エネルギーが得られる。」
水素 1kg分の場合に、具体的な数字で書くと:SmrtSt

電力 56KWhで水を電気分解
【効率60%】=> 33.6kWh、ちょうど 1kg分の水素エネルギー
【効率40%】=> 燃料電池で 13.4kWh発電    => 91km走行
(FCV内の発電は外から見えないが)

必須の投入エネルギーがまだ抜けている。水素を700気圧でタンクに詰め込むためのエネルギーである。この資料(pdf)の43ページにあるように、水素1kgあたり、圧縮動力が 4.4kWh(=15.7MJ)、-40℃へのプレクール(水素の冷却、プレクールの必要性は末尾に述べる)に1.1kWh(=3.9MJ)、計5.5kWhとなる。つまり、Miraiのタンクに700気圧で 4.3kg充填しただけで、5.5×4.3= 23.6kWhのエネルギーが全くのムダになる。EVなら 200kmほど走行できるだけのエネルギーを充填だけでムダに捨ててしまう。

まとめると、56+5.5= 61.5kWhの電力を費やして 91km走行するので、電費は 1.48km/kWhとなる。EVは 8.5km/kWhなので、FCVは5.7倍もの電気エネルギーを消費することになる。風力発電の現在の買い取り価格は 22円/kWhなので、水素 1kg作るのに電力だけで 1353円、電気分解装置など水素ステーション設備の償却を考えれば、適正価格は 100%稼働でも 3800円/kgぐらいになるだろう。つまりEVの15倍以上の走行コストになる。これは(1)で述べたコスト差と同じである。電気代が安くなればなるほど、この差は大きくなる。

燃料電池用には高純度の水素が必要なので、電解効率 60%はこれでも頑張った想定値らしい。燃料電池の発電効率も約 40%と低い。車用に使うとなると、ON/OFF動作が頻繁に起こる(ハイブリッド車のエンジンのように)ので、低温で動作可能なものでなければならない。さもなくば温度変動ストレスであっという間に劣化してしまう。現状はPEFC(固体高分子型)に限られ、そうすると効率はせいぜい 40%に留まる。

電気エネルギーをいったん水素に替えるのが、どう考えても賢くない。充電して放電するとエネルギーが 13.4/61.5= 22%に目減りするような「水素は出来の悪い電池」なのである。リチウムイオン二次電池ならこの充放電効率は90%以上になる。電気は電気のままで貯めて使うのが、最も効率が良い。

水素の利用法として、例えばこの記事「再生可能エネルギーの出力変動を水素で解決、貯蔵した水素で「MIRAI」も走る」などは良いアイデアのように見える。しかし太陽光発電だと稼働率は10%ほどなので、高額な設備を低い稼働率で動かす時点で、コスト的に見込みがない。稼働率50%ぐらい(夜/昼で充電/放電など)が最も可能性があるはずだが、電気分解装置と燃料電池に効率の高いものを使えたとしても、電力は 1/3ぐらいに目減りする。ちなみに揚水発電は効率70%。

再生可能エネルギーの電力があり余るような、見えない遠い将来ならば、水素は活用されるかも知れない。しかし電力があり余るほどの無駄な再エネ発電投資を、いったい誰がするのだろうか? あり余った電力は、水素に変換することで無駄に費やされるだけなのだから。


再生可能エネルギーの出力変動の吸収は、EVが普及すればもっと簡便に安く効率良く、以下のようにすれば実現できるのではないだろうか:
充電網につながるEVの台数はどの瞬間でも数百万台とかになっていれば、莫大な充電容量である。電力が不足気味のときは充電価格を高く、余っているときは安く、リアルタイムに変動させる。EV側が(ネット配信の)現在価格を自律的に判断して、時間に余裕があれば安くなるまで待機し、時間に余裕がなければ高くても充電する。それはユーザ設定でどうにでも選べるし、供給側もユーザ設定をマスとして把握できるようにすれば、正確に需要予測できるだろう。EV側にネット通信機能を持たせ、供給側に応対するサーバーを設置すれば、充電器などを特に更新する必要はないだろう。


水素充填になぜプレクール(予備冷却)が必要か? 充填する前のタンクには(例えば100気圧とかの)水素が残っている。外から水素を詰め込んで圧力を上げれば、温度が上がる(ボイル・シャルルの法則 PV=RT)。だから予め冷やした水素を詰め込んで、温度上昇を抑えている。ゆっくり充填するならば、タンクは周囲温度まで自然に冷えるので、プレクールの必要性は原理的にはない。しかし充填時間3分と、EVに対する訴求ポイントを謳うためには必須となる。

Miraiの仕様で、122Lタンク×700気圧に満充填で 4.3kgとなっているが、これは充填直後のタンク内温度が 75℃の場合である。さらに待って、タンク内温度が40℃まで下がれば 4.67kg入り、25℃まで下がれば 4.83kg入るはずである。


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